風が揺れ動く気配。
左目の神経と砂を繋ぐ。

 ふよふよと浮いているそれは、真夜中に見るにはあまりにも怖すぎた。

「……っち」
 眉間に皺を寄せ舌打ちをする。
見張りを付け、大量のチャクラを練れない印を施したとは言え相手は五代目火影の弟子。
微量のチャクラで逃げ出す事など造作もないことだった。

 くるりと動くのは我愛羅が砂で作った偵察用の目玉。
もぬけの殻になった病室と、倒れている見張りの中忍。

 砂を踊らせる風によって、唯一の手掛かりが消えていた。


 ***


 ――時はのぼり、数時間前。



「綱手様ー!」
「なんだ、騒々しい」
 バン! と火影室の扉をノックも無しに開けたのはシズネ。
珍しい事も有るもんだと綱手は器用に右眉だけ吊り上げた。

「砂からの親書です!」
「我愛羅か!」
 親書を受け取り綱手は目を通す。

「……サクラは砂で保護されたか」
「はい。衰弱しきっているようで暫く預かるとの事です」
 ふー、と溜息と吐く綱手は背もたれに体重を預けた。

「しかし、何故カカシの忍犬がサクラを探せなかった……それに何故医者ばかりを狙うのか」
 巻物状の親書を広げ綱手は疑問を呟く。
 シズネがその答えを知るはずも無く無言で立っていた。

「ん、なんだ、呪印?」
 我愛羅から綴られている言葉を読み進め綱手は親書を机の上に置き、顎に手を当てた。

「どうしました」
「シズネ、これを見てみろ」
 綱手に言われ親書に視線を向ける。
 そこには二枚の写真が貼られていた。

「これは、サクラと今回の件の被害者ですね」
 サクラの胸の呪印と砂で被害にあった女医の写真。
よくよく見れば、女医の額に浮かび上がっている呪印とサクラの胸に刻まれている呪印は同じものだった。

「綱手様、これは」
「呪印と言うより家紋に近い。我愛羅もその事を書いている。
だが何だ、花をモチーフにしたの家紋などゴロゴロあるぞ……ったく」
 里が一望できる窓の前に綱手は立ち、空を眺めた。

「シズネ」
「はい」
 腕を組んで、少し考えて綱手は深い溜息を吐いた。

「木の葉にある家紋を全て調べろ。この里の物かは不明だが……」
「全部ですか!? 名家ならまだしも一般家庭の物まで調べるとなると……」
 ヒクリとシズネは唇を歪ませる。

「時間は掛かっても構わん。人数を割いてもいい」
「は、はぁ……」
 眉を下げ、生返事をするシズネに綱手は視線を向けた。

「それに、どこかで見た気がするんだ。この家紋」
「え! じゃぁ思い出してくださいよ!」
「それが出来たら苦労はせん! ほら、早く行け」
「わ、分かりましたよ……本当人使い荒いんだから」
 項垂れながら火影室を出るシズネを見送り、綱手は眉間皺を寄せ目を閉じた。

 何処で見たのか。
何か重大な事を見落としている気がする。
ただの、杞憂だといいんだが。

 綱手はサクラの無事に少しの安堵を覚えたが、何故だかザワザワと騒ぐ気持ちが抑え切れなかった。