キラキラ輝く満月が綺麗だったけれど、どこか悲しく感じてしまう。
親友であるサクラの無事を聞き、いのは人知れず安堵の息を吐いた。

 細々と点いている明かりを頼りにいのは歩みを進める。
よく資料室に入り浸っているサクラとは別に、いのは本の匂いは別に好きではない。
どちらかと言うとバラや百合など生花の香りの方が好きだった。

 そう言えば、何時だったか。
サクラが埃っぽい書物の匂いやインクの匂いが落ち着くと言っていたときは流石に疲れているんではないかと心配した。
誰よりも可愛くなろうと、綺麗になろうと頑張っていた少女は大人になるにつれ、
お洒落をする暇があれば修行をして、雑誌を読む暇があれば医学書を読むようになってしまった。

 お陰で未だオツキアイをした事がないのである。

 彼女の行く末が心配だ。
そんな事をぼんやりと考えながら目的である扉の前に立つ。

 ギイィ

 重い扉を開け目の前の惨状を見て、いのは言葉を失った。

「うー……もう駄目だってばよ」
「無駄にチャクラの使いすぎだ、ナルト」
「あーあ……こんなに大暴れしちゃって。綱手様に見られたらただじゃすまないよ」
 扉を開けたまま立ち尽くすいのに気がついたのは倒れた本棚の上でゴロリと寝転んでいるナルト。
仰向けになった状態でいのに声を掛けた。

「あれ? いのじゃねーか。どうしたんだ?」
「どうしたじゃ……なにこれ」
 この状況は一体何なのだといのは問い正したかった。
埃っぽい資料室だが一応整理整頓されていたはずだ。
それがたった数時間の内に本棚は倒され、大量の資料やら巻物や本は引っ張り出され積み上げられていた。

「なんだ、いの。今日は病院勤務じゃなかったのか」
「シカマル……仕事が終わったからちょっと立ち寄ったのよ」
 大量の資料の隙間から顔を出したシカマル。
床に座り込んで目当ての文献を探していたようだ。

「態々悪いな。こっちはこの状況だ。見つかりゃしねぇ」
 溜息を吐き、手渡されている家紋のメモを見るシカマルを上から除き見たいのは「ん」と声を上げた。

「……これ、どっかで見たことがある気がする」
「本当か!」
 口元を押さえ、考えるいのにシカマルは思わず声を上げた。

「ええ、えーっと何処で見たことあるんだっけ」
「どうした、シカマル」
 シカマルの声に、奥から現れたネジ。

「あ、ネジ、実は……」
 シカマルとネジが話しているのを一瞥し、シカマルが持っていたメモを受け取りいのはぼんやりと眺めた。

 何か、とても大切な事を忘れている。
いのは焦りと不安を感じていた。
じっと、その家紋を見て何処か遠いところに置いてきた記憶を探ろうと必死で考えた。

 一体、何処で。



 ***



『……た……の』
『え、なに? 聞こえない。もっとはっきり言ってよ、サクラー』

『……いのちゃん、これね、貰ったの』
『貰ったぁ? 何をよ』
『これ、えっとね……』



 ***



「ウサギ……」

 ぽつりと呟くいのにシカマルが視線を向けた。

「ウサギだ! そうだサクラのウサギ!!」
 忘れていた記憶が鮮明に蘇ったいのの瞳の真剣さにシカマルは眉間に皺を寄せる。

「サクラが持ってるウサギのぬいぐるみにあったマークにそっくりだわ!」
「いの、それは本当か!」
「ええ、だけどなんでそれが……」
 いのの言葉にカカシは少し考え口を開いた。

「もしかすると、これは初めからサクラを狙っていたのかもしれない……」
「そんな! なんでサクラが狙われるのよ!」
「そうだってばよ!」
 カカシの言葉に反論するいのとナルト。
二人の言葉に掌を横に振りながら「あくまでも、って事だよ」と極力優しく呟いた。

「とにかく、そのぬいぐるみとやらを見ないことには何も始まらない。いの」
「わかってるわ、サクラの家に行ってみるわよ!」

 シカマルの言葉にいのはコクリと頷く。
今はいのの記憶だけが頼りだった。


3:求めるもの