塔を揺らす大きなゆれに何事かと走ってきたシズネは、いまいち状況を理解し切れなかった。
室内では師である綱手がうさぎのぬいぐるみを床に殴りつけている状況だったのを見て、ただ首を捻るしかなかった。




「もう動かないようだな」
「どうやったんだってばよ」
 ぶらりと先ほどまで動いていたうさぎのぬいぐるみの耳を無造作に掴んだ綱手は
ぬいぐるみの胸元から、先ほどまで蠢いていた気味の悪い模様が消えたことを確認した。

「綱手様がチャクラの流れを切ったんだ」
「切った?」
 ナルト、ではなくシカマルがネジに問えば白眼でぬいぐるみを見て頷く。

「先ほど綱手様が殴った瞬間、あのぬいぐるみの核から流れてくるチャクラをご自身のチャクラで切断したんだ。
そして殴られた衝撃で核は粉々に壊れてしまったようだ」

 あの一瞬で、ただ殴っただけに見えたがあのぬいぐるみの核の位置まで正確に見抜きどこからか送られてくるチャクラを切断させた事に
シカマルはやはり綱手は敵に回したくないなと内心思ってしまった。

「でも、よかったんですか? 情報を引き出す前に……」
「いい、こいつから聞かぬとも得られる情報はある」
 綱手はカカシの問いに持っていたぬいぐるみを机に置き、真っ直ぐといのを見た。

「いの、話してもらえるか。分かる範囲でいい」
「と言っても……正確な情報ではないかと思いますが……私はサクラほど記憶力がいいわけじゃありませんし」
 それでもいい。と頷いた綱手にいのは記憶を探るように眉間に皺を寄せ額を一度だけ撫でた。



「正確に言えば、私は知っていると言うより"聞いていた"と言う方が正しいと思います」
「ほう……」
 いのはちらりとぬいぐるみを見て記憶を探るように目を瞑った。

「多分、私と会う前にサクラはその子に会っていると思うんです。
私に嬉しそうに話してきたのを覚えてます。名前も知らない男の子から貰ったんだと」
 目を開けそうだ、と思い出したように顔を上げいのは鮮明に思い出した記憶に眉を吊り上げる。

「確か、一度だけ行方不明になったんです」
「行方不明?」
 いのの言葉に綱手は顔を上げ、シカマルはそう言えばとシカマル自身も何かを思い出したように言葉を続けた。

「確か、ありゃサクラのお袋さん相当取り乱してたな」
「うん。夕方に帰ってくるはずのサクラが帰ってこなくて……暗部の人達に探してもらったんです。
そしたら、閉鎖されているはずの演習場で見つかったんです。その時からサクラその子の事を一切話さなくなって」
 ふむ、と綱手は顎を触った。

「その演習場はなにか変わったこととかあったのか?」
 綱手の質問にいのとシカマルは顔を見合わせた。

「覚えてるか?」
「えーっと、確か……そう! ご神木! ご神木って言ってた!」

 いののその言葉に目を見開いた綱手は「それは本当か!?」と珍しく少し動揺する。
「はい、そうです。ご神木を守っている男の子にそのぬいぐるみを貰ったと言ってました」
 その言葉にドサリと椅子に腰を下ろし、綱手は視線をシズネに向けた。

「シズネ、存命しない一族の中でご神木を守る一族が居たはずだ。初代火影が残した書記に記されてあるはずだ……確認を急いでくれ」
「はい! 分かりました」
 綱手の命を受けシズネは慌しく部屋を出て行く。
それを見送ったナルトは首を捻り小さな声でネジに問う。

「なぁなぁ、結局そのごしんぼく? と今回のサクラちゃんの件何がどうなってんだ?」
 ナルトの質問に、ネジは見下したようにナルトを見て盛大に溜息を吐いた。

「話を聞いていたのか」
「聞いてたけど、よくわかんねーや」
 ガリガリと後頭部を掻いたナルトにネジは至極分かりやすく説明をした。

「いいか、今回の各里で襲われていた者は全員体に呪印のようなものが入ってた。
そして、それは呪印は何処かの一族の家紋だったんだ」
「おう!」
 ナルトの返事に本当に分かっているのか、と言う表情をしたネジだが言葉を続ける。

「その家紋が入ったぬいぐるみをサクラは子供の頃にとある"少年から貰った"と言う。
いいか、よく聞け。今回のこの一件は"その少年がサクラを探す為に引き起こした事件"と考えた方がいいだろう」
 ネジの言葉にそうか、と理解を示したがナルトはもう一度首を捻った。

「あれ? でもばーちゃんさっき存命しないって……」
 ナルトの言葉に反応したのはカカシだった。

「そこだよ、ナルト。先ほどの綱手様の物言いだときっと初代火影の時代にその一族は既に何らかの理由で生存していないはずなんだ。……そうですよね、綱手様」
 カカシの問いかけに綱手は「ああ、そうだな」と頷いた。

「その一族は私が生まれる前に既に全滅したと聞いている。ご神木の存在も私だってどこあるか知りはしなかったんだ。
なのに、何故サクラが知っている? ともすれば、幼少期のまだ何も知らない純粋な頃に呼ばれた可能性がある」
「よ、呼ばれたってなんにだってばよ……」
 顔を真っ青にしながら恐る恐る聞くナルトの目をじっとるだけで綱手は何も答えなかった。


「まぁ、不思議な存在って奴だろうね」

 カカシの言葉にナルトは冷や汗をびっちりと掻いた。




 ***



 ピーヒョロロ

 頭上を旋回する遣いの鳥をピーと指笛で呼べば大人しく目の前に降りてくる。

「いい子だ。どうしたんだい」
 目の前の遣いの鳥の頭を撫で、首に括りつけられた巻物をするりと抜き去り内容を読み取り、すぐさま手持ちの筆で返書を書いた。

「頼むよ、急ぎで火影様に伝えてくれ」
 そう言えば遣いの鳥は大きな翼を広げ悠々と空へと姿を消した。

「なんだったんだ」
 ガサリと背後から聞こえた草を踏む音。
にこりと笑い目の前の男に先ほど受け取った巻物を目の前の男に手渡した。

「サスケ、火影様からの緊急任務だ。僕らはすぐさま砂に向かおう」
「……奴等はどうする」
 目の前で笑う男を見て、サスケは問う。

「ガイ先生には負傷した木の葉丸君を木の葉まで連れて帰ってもらうよ。もう返書は出した」
 そう目の前で言う男に、抜け目が無いな。と思いながらも懸命な判断だと内心思ったことは口には出さなかった。

「そうだサスケ」
「……なんだ」
 目の前で胡散臭く笑う男にサスケは言葉少なく返事を返す。

「君も無理をしないほうがいい。写輪眼の多様は目が見えなくなるよ」
 そんなことは重々承知している。とサスケは思うが反論するのも面倒くさく「ああ」としか返事をしなかった。

「君に何かあったらサクラとナルトが悲しむからね」
 なんでサクラが先なんだ……と心を過ぎったがその事に関しては何も触れずにくるりと振り返った。

「さっさと行くぞ……サイ」
 未だ距離感がつかめない男の名を呼べば「ああ、行こう」と一歩足を踏み出した。