さあ、深い深い闇へと行こう。
君だけが僕の存在を知ってくれる。
君だけが僕を必要としてくれればいいんだ。

 君だけが。


『ああ、綺麗だ……綺麗だよ』

 閉鎖された空間。
陽の光が僅かにしか届かぬ暗い、暗い闇の中。

 少年は目の前で眠りこけているサクラを見て薄っすらと笑う。
流れる薄紅色の髪にそっと差された勿忘草。

『桜なんて大輪に咲き誇る花じゃなくて、君はひっそりと咲く花が似合ってるんだ』
 クスリクスリと笑う少年。
目の前で眠るサクラに幼かった少女の姿を重ねる。

『そんなに咲き誇らなくていいんだ……』

 ぽつりと呟いた少年の言葉は、遠くで聞こえた水が落ちる音に飲まれてしまった。







 ***




 ビリビリと痛いほどの緊張感が走る室内に、カンクロウはほとほと疲れきっていた。
目の前でにこにこと笑う男と、仏頂面な男。
相対する二人だがここ、砂隠れに来た目的はただ一つのはずだ。

「どういうことだ」
「……サスケ、少し落ち着いたほうがいい」
 少しだけ目を見開き目の前にいる人物に飛び掛らんばかりの声色だったのは、元S級犯罪者で木の葉の忍であるうちはサスケ。
無駄だと思いながらも冷ややかな目でサスケに声を掛けたのは、同じく木の葉の忍のサイだった。

「さっきも言った通りだ。……サクラはここに居ない、逃げられた」
「だからそれがどういうことかって聞いてるんだ!」

 火影の書状を砂隠れの忍に見せ、風影である我愛羅の所に通されたサスケとサイは我愛羅の説明に納得がいかなかった。

「火影の通達で俺達はここにサクラがいると聞き来る様に命じられたんだ。なのに何故ここにサクラが居ない?」
 目を開き我愛羅を見るサスケの瞳が揺れているのを見て、サイは小さく息を漏らす。

「風影様、僕らは何も情報が無いままここに来ました。サクラが何故ここ、砂隠で保護されていたのか
そして何故「逃げられた」と言われたのか……説明していただく権利があると思うのですが」
 ニコリと笑うサイにサスケよりは冷静に話が出来そうだと、我愛羅は息を吐いて机の上から一枚の書類を取り出した。

「サイ……そんなことを聞いてどうする。サクラが居ない事は事実だ。話を聞いても意味がない」
 サスケの物言いに室内にいたカンクロウが眉を潜め口を開こうとしたがその前にサイが「サスケ」と名を呼んだ。

「君は何か勘違いしている。居ないのは事実。だけど僕らはサクラの保護といわれている。
僕らには何も情報が入っていないのも事実だ。確かな情報を仕入れなければサクラを探すのにも無駄骨になる」
「……っち」
 サイの言葉に舌打ちをして腰に差している刀に触れる。

「それに、口の利き方に気をつけたほうがいいと思うよ」
 にこやかに笑うサイに今度こそしかめっ面をしたサスケは「うるせぇ」と呟いた。


「……いいだろうか」
 業とらしく大きく溜息を吐き、二人を傍観していた我愛羅はここに居ないサクラを思い出し難儀だなと心の中で呟いた。
ナルトにサスケ、そしてサイとなんとも濃い三人に囲まれている彼女は大変だろうと思い、
今度砂隠れに来た時に愚痴の一つでも聞いてやろうと考えた。


「簡単に説明する。ここ最近、医療に従ずる者達が殺害されるという不可解な事件が各里発生している。
恐らくサクラもこの件に巻き込まれたと見て間違いないだろう。その証拠に今までの被害者と同じ呪印のようなものがサクラの体に刻まれていた。
だが、サクラは遠隔で何ものかに操られていると考えて間違いないだろう」
「操られてる……?」
 我愛羅の話にサスケが疑問を投げかけた。

「ああ、商人風の男に攫われていたのを保護したんだが、目を覚ました途端病室で大暴れさ」
 椅子に座ったままのカンクロウが両手を頭の後ろで組み天井を見上げた。

「その男はどうしたんですか?」
「……死んだ。というよりその男は死んでいたといった方が正しいじゃん」
 カンクロウの言葉に益々意味が分からなくなりサイは首をかしげる。

「目の前で溶けたんだよ。その男は。中から出てきたのは頭蓋骨だけ、
調べてみたらもう十年以上前に死んでいるのが確認できたじゃん……」
 気味が悪い。と言うカンクロウ思わずサスケとサイは顔を見合わせた。

「なんだ……幽霊の仕業とでも言うのか」
「それは知らん。だが今回の件はサクラを狙ったものと見ていいだろう」

 そう告げた我愛羅の言葉にサスケは、無意識の内に眉間に皺を寄せていた。