吹き荒れる砂嵐に痺れを切らせ飛び出そうとしたナルトに我愛羅は一言「死ぬぞ」と注意を促せば慌てたように洞窟に引き返す。
 まるで行く手を拒むような砂嵐に、この広大な砂漠は今日は一段と機嫌が悪いらしいと我愛羅は思う。


「こんな所で足止め食らっている場合じゃないってばよ……」
 ぐっと顔を歪めるナルトに「大丈夫だと思う」と答えたのはいの。
「多分、サクラは大丈夫よ。命を奪う事が目的ならとっくに殺されてると思うわ。
相手が欲しいのはサクラ自身……。きっと手荒なことはしないと思うわ」
 吹き荒れる砂嵐を見ていのは思う。

 良くも悪くも厄介な相手に好かれるらしい、と。

 ふぅ、と小さく溜息を吐くいのの肩にポンっと手を置いたテマリは目尻を柔くする。
「いの、アンタもあまり気負いするな。アンタのせいじゃないだろう」
「はい……そうですね。でも後悔はしています」

 鮮明に記憶が蘇ってくればくる程いのは幼い頃の自分を悔いた。
何かに脅え泣きじゃくるサクラを何故もっと問わなかったのか。
そもそもどこかにふらりと消えてしまうサクラの腕をキチンと掴んでいればよかった。

『いのちゃん、私どこかに連れて行かれる……! 怖いよ!!』

 幼い頃のサクラは確かにそう叫んでいた。
 鮮明に思い出したのは自分とサクラしか居ない真っ白な病室。
自分だけが聞いていた。自分だけが知っていた。
何故、もっと三代目に言わなかったのか。何故父にもっと相談しなかったのか。
サクラが目の前に戻ってきただけで安心していた幼い頃の自分が浅はかだった。

 何も解決していなのに怖かった記憶だけ封じてしまったのか。

「三代目様にキチンと話していればこんな事にはならなかった。」
 サクラの不安を拭い去らず、ただ『怖い』と言う記憶だけを封じてもらったのだ。
 ただ、後悔だけが胸に募る。

 耳に残るゴウゴウと聞こえる砂嵐の音だけが響いている。


「大丈夫ですよ、いのさん! サクラさんは僕が助けます、そしてこの事件も解決して見せますよ!」
 沈む空気を打ち破るように、キラリと白い歯を見せ宣言するリーの声は底抜けに明るかった。

「はぁー!? 何言ってんだゲジマユ! サクラちゃんを助けるのは俺だね!」
「ではナルト君勝負です! どちらが先にサクラさんを助けるか!」
「やってやろうじゃないか! ぜってー俺が先だってばよ!」
 
 キーっと叫ぶナルトを見ながら「皆で行くんだからどちらが先とか無いんじゃないかな?」とサイは呟いたがその言葉は騒ぐナルトとリーには聞こえていなかった。

「勿論、サスケ君もですよ!」
「はぁ? なんで俺が……」
 突然のリーの言葉に面倒くさそうに言葉を返すサスケを見てナルトは口元を押さえ小馬鹿にするように笑う。

「ははーん、サスケは自信がねーんだな! まぁ仕方ねーよなぁー」
「おや、そうなんですか! サスケ君ともあろう方が!」
 そう会話するナルトとリーの言葉にヒクリと口を歪め、まんまと挑発に乗ってしまった。

「おもしれぇ……テメー等ウスラトンカチ共に負けるかよ」
「僕はウスラトンカチではありませんよ!」
「誰がウスラトンカチだテメー!!」
 
「ちょっとアンタ達煩いよ!!」

 狭い洞窟の中でギャーギャーと騒ぐナルト達に一喝するテマリ。
 そのやり取りには一切参加せず、腕を組み壁に背中を預け、ただひたすら砂漠を見ていた我愛羅は思う。
 
 春野サクラと言う人物はつくづく不思議だと。
 
 猛獣のような奴等にこうもまあ好かれるとは、なんとも大変であろうと。
 愚痴を聞けば山ほど出てきそうだな。

 そう考えれば自然と口元が緩むのを見たものは誰も居なかった。


 ゴウゴウと激しい音を立てていた砂嵐は突然弱くなる。
 それを確認した我愛羅は顔を挙げ、未だ騒いでいるナルト達に顔を向けた。

「何時まで騒いでる……嵐がやんだ、行くぞ」

 我愛羅の言葉に「おう!」と頷いたナルトはパン! と胸元で自分の拳を掌にぶつけ気合を入れた。