深い深い闇の中から浮上する意識にピクリと動いた指先。
肌寒い空気と土の匂い。
気だるい体を起こし、ゆるりと瞼を開ける。
「ここ……何処」
湿った空気に微かにしか届かない陽の光。
まるで記憶の奥底に封じ込めたいつかの森のようだと思った。
ふわりと背後に感じた気配に勢いよく振り向けば思わず目を見開いて後ずさる。
『やっと……やっと会えたね、サクラ』
それは絶望へと導く声。
背筋が恐怖に包まれた。
蠢く獣を蹴り飛ばし、頭上から飛び掛ってくる別の獣の気配に、地面に腕を付いてぐるりと体を捻らせ右足で蹴り飛ばす。
ギャアア! と聞こえた声を確認し素早く飛び上がり地面に足をつけたリーは振り返る。
「キリがないです! いくらやっつけてもどんどん出てきますよ!!」
「こっちも埒があかねぇ!! なんだってばよ!」
螺旋丸で目の前の獣を吹き飛ばしリーの声に続くように声を上げたナルトは、顔を上げ声を張った。
まるで奈落の底へと続くかのような谷底。
砂漠を越えじわりと湿気の多い地帯に足を踏み込めば目の前に現れた森林。
砂隠れと雨隠れの国境付近、両国に住むものは決して近づかぬ理由はその森林地帯が一度入ると二度と抜け出せぬと言われているからだ。
薄暗い森林地帯は地盤が緩く一歩踏み出せば崩れてしまう地面も多い。
森林地帯と言うよりも山に近い森。
ゴオオオと風を吸い込むように口をあけたのは谷。
暗闇が恐怖を誘い風が笑っていた。
その奈落へと続く崖の上に立ち、我愛羅が「行くぞ」と飛び込んだのを見てナルト達は慌てて後を追ったのがほんの数分前。
谷底はまるで別世界のようにじめじめとし見た事も無い木々を生やし、生物が蠢いていた。
「っち、数が多いか」
我愛羅は砂で次々と襲い掛かってくる見た事も無い生命体を周りの木々に叩きつける。
「仕方ない、全部吹き飛ばすよ!」
テマリの声に我愛羅は顔を向けすぐさま飛び上がる。
「大カマイタチの術!!」
大きな鉄扇を一振りすれば、ゴリゴリと音を立て木々や獣達を一斉に吹き飛ばす。
根こそぎ倒れた木々を見て我愛羅は溜息を吐く。
「テマリ、あまり破壊するな」
「仕方ないだろう。そんな事言っている場合か!」
ダンっと鉄扇を地面に置きテマリは木の上にいる我愛羅を見上げる。
「すげえな! 我愛羅のねーちゃん!!」
「アンタも風遁使いならコレぐらい出来るはずさ」
テマリの術で無理やり開けた道を見て「女の人って怖いなぁ」とサイは呟いた。
突如としてゴゴゴゴゴと揺れる地面。
まるで崩れる様に唸りを上げ、そこに居る者を飲み込もうとするように聞こえた地鳴り。
「うわ!」
「地震か!」
唸り声のように聞こえる音に眉間に皺を寄せたサスケは飛び上がる。
「忍法、超獣戯画!」
するりと筆を動かし印を結び墨で描いた鳥達を具現化する。
バサリと大きな翼を動かし飛ぶ鳥に乗りサイが促せば、ナルト達は颯爽と飛び乗り地を離れる。
谷底が更に深い闇へと落ちるように崩れていくのを呆然と見ていた。
「なんで、突然……」
いのがポツリと呟いた。
まるでここに居る人間達がこれ以上先に進むのを拒むように感じ我愛羅は眉間に皺を寄せた。
砂に乗ったままの我愛羅は先の見えない薄暗い闇を見た。
ゾクリと背中に走る悪寒。
目を細めその先を見つめればそこに居る何かと視線が合う。
「我愛羅!?」
突然駆け出した我愛羅に驚いたテマリは名を呼ぶが我愛羅はテマリの声が聞こえないのか振り返りもしなかった。
「我愛羅ー! どうしたんだってばよ!」
ナルトは叫んだ後、サイに後を追おうと視線を向ければ、サイはコクリと頷いた。
「待て! ナルト!!」
サスケの制止する声にサイがいち早く気がつき背に乗っている鳥を迂回させた。
ドンッ! と音を立て地面から何かが這い出てくる音。
ぬらりと粘土のような体に山のように大きな巨体。
ウオォォと唸り声を上げる不気味な存在。
「なに、こいつ……!!」
「生き物なのか!?」
泥人形のような目の前の存在にいのとテマリは声を上げた。
「ここから先には行かしてくれねーみたいだな……」
「足止めって訳か、この先に来てほしくない理由があるんだろうな」
ゴキゴキと首を鳴らすナルトとサスケは確信をした。
この先にサクラがいるのだろうと。
「そうですね! 我愛羅君が先に行ってしまいました! 我愛羅君ばかり格好いいところを持っていかせはしませんよ!」
ぐっと腰を下ろし腕を真っ直ぐ前に伸ばしたリーは敵の動きを見逃さぬように神経を集中させた。
「そんな事言ってる場合!?」
「いの! 来るぞ!!」
リーの言葉に声を上げたいのにテマリは鉄扇を構え目の前の生物が動くのを見た。
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