「うあああああ!!!」
少年の泣き叫ぶような声に木々が揺れ、花はざわめき生き物たちは逃げていく。
少年の声とどろりと溶けたご神木だったものは呼応する。
怖いぐらい鮮やかに輝いていたご神木は、まるで腐ったように黒く染まっていた。
少年の声に、サクラは耳を塞ぎ肩を震わせる。
「いや……嫌、助けて、助けて……いの…いの……!」
サクラの口から出る言葉に、我愛羅は子供の頃の記憶が蘇っているのであろうと思い背中を擦る。
こんな事をしても欲しいものは手に入らないというのに。
目の前の少年を見下ろし、我愛羅はゆっくりと地面に足をつけた。
「お前に……! お前なんかに何が分かる……!!」
叫んだ少年は真正面から我愛羅に向かう。
ダンッ! と足で地面を蹴れば黒いご神木から伸びる触手は無造作に辺りを薙ぎ払う。
ジュっと音がすれば、触手が薙ぎ倒した木が黒く染まりドロリと腐る。
木と砂とは相性が悪い。
そう思いながらも、サクラを抱えたまま後ろに飛べば砂塵が辺りを包み込む。
砂で少年の足を掴み勢いに任せ、ご神木目掛けて投げ飛ばした。
次々と伸びてくる触手に触れぬよう砂を滑り込ませ、ギリギリ触れずに砂の上を渡り進んでいく。
サクラから腕を放し砂で抱えると、我愛羅は両手で印を結ぶ。
足にチャクラを薄く纏い岩肌が目立つ壁に着地をし、両手を壁につけ勢いよくチャクラを流し込んだ。
砂は自分が持っている砂だけでなくていい。
そこらへんにある岩や土にチャクラを送り細かく砕いて更にチャクラを流し込めば粒子となりあたり一面砂と化す。
壁を伝い地面に流れたチャクラがうねり、大量の砂が全てを覆いつくす。
ザアアアアア
流れる砂の音に目を見開いたのはサクラ。
元人柱力とは言え、今我愛羅の中に守鶴は居ない。
それなのに辺りを全て砂で覆いつくしてしまうほどのチャクラの量と威力に、ただただ、驚いた。
我愛羅の砂で浮いていたサクラは辺りを見渡し、小さく息を吐く。
先ほどまでの恐怖よりも、目の前の光景に驚き平常心を取り戻す。
ご神木と言われていた大木まで優に埋め尽くしてしまうとは。
視線だけで我愛羅を見れば呼吸一つ乱れていない事に、サクラは守鶴がどうこうじゃないと理解する。
「我愛羅くんが強すぎるだけじゃないの……」
そりゃぁ、ナルトやサスケと渡り歩くのだからそれもそうかと納得させた。
我愛羅は砂の上に立ち目を細め砂を見る。
砂を掻き分けて這い上がってくる気配に「チッ」と内心舌打ちをする。
「しつこい奴だ……」
我愛羅がそう呟いた瞬間、我愛羅が立って足元の砂がボコリと沈み引きずり込まれる。
寸での所で高く飛び上がり、避けた我愛羅だったがサクラとの距離が離れてしまったしまったことに、マズイと頭の中で瞬時に思う。
砂の中からザクリと出てきた姿を見てサクラは声が出なかった。
その姿はもう、少年とは言えぬ姿。
ヘドロみたいな悪臭と黒く溶けている体。
ゆっくりとその姿を認識したサクラは呆然と『少年だったもの』を見た。
『サ、ク……ラ……』
ノイズ交じりの声。
まるでご神木に取り込まれてしまったように、少年の体は半身が禍々しい黒い木に取り込まれていた。
手を伸ばした少年はピタリ動きを止めた。
『どう、して………』
少年はサクラを見下ろし疑問の言葉を投げかけた。
どうして泣いているの?
サクラははらりと涙を流していた。
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