いつも泣いている女の子が居た。どんな風に笑うのか気になった。
でも僕は死んでいるから声は届かないだろうと思った。
だけど毎日、毎日苦しそうに泣くから気になって声を掛けてみた。

 びっくりしたけど声が聞こえたみたいで嬉しくなった。
それでも泣き止まないからお気に入りのうさぎのぬいぐるみをあげると、花が咲くように笑ったから思わず僕も笑った。

 毎日泣いていた女の子がある日友達が出来たと嬉しそうに笑った。
そうか、もう此処には来なくなるのかと思ったら嫌だった。
離れていくのが怖くて、また誰からも忘れられるのかと思うと悲しかった。

 ずっと此処に居ればいいのに。

 そしたらずっと笑って居られるのに。
そう思ったら、守り神様は何か言った気がしたけれど分からなかった。
そこから目の前が薄暗くなって、記憶が曖昧でしかない。



 ただ、泣かせたかったわけじゃなかった。
もう一度、花が咲いたように笑ってほしかったんだ。




『サク……ラ……?』
 首を傾げ不思議と声を上げた少年は何が起こったかわからず、サクラの名を呼ぶ。
 はらはらと未だ涙を流すサクラを見て少年は後ずさる。

『違う……違、う……違う……!!』
 頭を抱え蹲る少年をサクラは見上げた。

『僕は……! 僕はあああ…!!』
 雄叫びのように叫んだ少年は目の前のものを薙ぎ払うように腕を伸ばす。

「あ……」
 咄嗟の事で反応できなかったサクラは、ぼんやりとその動きを見ていただけで小さく声を上げた。

 少年の手がサクラを払うよりも早く砂がサクラを覆う。
視界が暗くなり、突然引っ張られる感覚にサクラは意識を浮上させた。

「死にたいのか!」
 それは、珍しく声を荒げた我愛羅の言葉。

「ご、ごめん……」
 我愛羅の砂に引っ張られたサクラは我愛羅を見て謝った。
少年が薙ぎ払った場所は黒い煙を上げながら、跡形も無く溶けて消えていた。


『うああああ……!!』
 全てを消し去るように暴れ狂う少年に腕を伸ばした我愛羅だが、その腕をサクラにガシリと掴まれた。

「待って! 我愛羅くん!」
 サクラの行動に驚いた我愛羅が顔を向けた。

「あの子を助けたい!」
 サクラのその言葉に我愛羅の頭はぐらりと揺れる。

「お前を殺そうとした奴だぞ」
「だけど……!!」
 歯を食いしばるサクラを見て、視線を外し暴れる少年に顔を向けた。

「……同情ならやめておけ」
「違う! ただ……!」

 あの子を助けたい。
そう思ったが自分には助ける術も力も無い。
唇をギュッと横に引き、視線を落として力なく我愛羅の腕から手を離した。


「あいつは死人だ」
「……うん」
「もう開放してやろう」
「うん……」
 我愛羅のその言葉にサクラはじわりと目の奥を熱くさせコクリと頷いた。