唸り声なのか呻き声なのか。
少年とは形容しがたくなってしまった"少年だった"存在は破壊衝動を繰り返すのみ。

 サクラから視線を外し我愛羅はさて、と考える。
ああは言ったもののどうするか。と目の前で暴れる存在をじっと見やり息を浅く吐く。
死人故、捻り潰そうが地中深く埋めようが効かぬだろうと思い、少年の半身を取り込んでいる黒い木の根を見る。


 やはり、本体はあのご神木か。と我愛羅は誰に言うでもなく結論付けた。
 ご神木やら万薬の木やらよく言ったものだ。
そう言う類のものは大抵人を誘き寄せ、狂わせ、最終的に喰らい尽くす。
そしてまた思念が残り木に宿りまた人を誘い狂わせる。

 まるで負のサイクルだな。

 我愛羅は地面に手をつけ少年を砂で拘束し半身と木の根が繋がっている場所をゴリッと引き裂いた。
それに思わず顔を逸らしたサクラだったが『ギャアアア』と耳に残る叫び声をあげる少年にぐっと目元に力を入れ顔を上げた。

 砂で持ち上げられた少年の半身は千切れていたがそこからぼとり、ぼとりと落ちるのは黒いヘドロ。
鼻につく匂いにサクラは思わず口元を押さえた。

 足元の砂に両手を付き、我愛羅は引き千切った木の根の大本を探れば砂にチャクラを流し込んだ。

 ぐらぐらと揺れる足元の砂。
まるであり地獄のように砂が吸われていくのを見てサクラは慌てて立ち上がる。
何をする気だ。
サクラはそう我愛羅を見れば、眉間に皺を寄せた我愛羅が腕をゆっくりと引き上げるのを見て砂に視線を戻した。

「まさか、引き上げたの!?」

 大量の砂が舞い、砂埃を立てながら砂の中から出てきた黒々とした大木を見てサクラは声を上げた。
目の前に現れた大木の表面がドロリと流れ落ちれば、ジュっと音を立て砂の表面を黒く染め上げる。


 全ての元凶はやはりあの大木か。
思念が宿りそれが時を経て表面へと出てきたのだろう。我愛羅はそう考え両手を合わせ砂で大木の周りを覆う。

「どうするの!?」
「あれを破壊する。あれが存在する限り何も終わらない」

 サクラは立ち尽くし我愛羅の言葉を聞いた。
ゆっくりと顔を動かし、吊り上げられたままの少年だったものを見る。

 ぐっと奥歯を噛み締め,、掌を握り締めれば痛いほどに爪が食い込んだ。


 どうして、私は。
じわりと目の奥が熱くなるのを、はぁ、と深呼吸をして無理やり押さえ込んだ。

「我愛羅くん!」

 呼びかけに我愛羅はサクラの顔を見たれば、翡翠の色をした瞳の奥に燃える炎を感じる。

「どいて! 私がやる!!」

 叫んだサクラは我愛羅の言葉を待たず歯を噛み締め、右手にチャクラを溜めご神木目掛けて飛び上がった。


「しゃーんなろー!!」

 ダアアアンン!!!


 辺りに響き渡る激しい音。
我愛羅が覆っていた砂の上からご神木目掛け拳を振り下ろす。
メキメキメキと音を立てご神木が中から砕けてしまった。


「はぁ……はぁ……」
 肩で呼吸を整えるサクラがご神木を見上げる。
砕けたご神木の中から見えた白いものにサクラは目を見張る。

 ご神木は色を失い、音を立て砂に沈む。
禍々しいほど黒く光っていた光は消え、砕け折れたご神木はただ、朽ち果てた木となっていた。

「……これは」
「骨……?」

 白い何かに我愛羅は近づき砂でそれを引き上げればご神木の中から出てきたのは、年端も行かぬ子供の白骨。
その骨を見てサクラは少年を見上げた。

 ドロリと溶けていた少年体は砂の上にはもう無くて。
ヘドロのように漂う異臭も無かった。




「……そうか」
 ポツリと呟くサクラに我愛羅は視線を向けるが、背を向けていたため表情は分からなかった。

「あの子はただ、見つけて欲しかっただけだったんだ……」
 子供だったあの頃から、あの子はずっとサクラに助けを求めていただけだったのだ。

 怖がらずに、あの子を正面から見ていればよかった。
ただ、ただ、サクラの胸には後悔しかない。