天を見上げるように微かにしか光の届かない天井を見上げるサクラの背を見て我愛羅はゆっくりと瞬きをし息を吐いた。
「サクラ」
我愛羅の呼び声にサクラは答えず、ただ掌を握り締めるだけ。
「サクラ」
もう一度、名を呼べば少しだけサクラは首を動かした。
右腕を伸ばし、サクラの頭に後ろからそっと手を乗せた。
「泣くなとは言わん。後悔するなとも言わん。ただ、泣いた分だけ強く生きろ」
ぼろりと涙を零したサクラは言葉無く、コクコクと頷くだけだった。
暫く泣き腫らしたサクラはずっと鼻を啜って目をガシガシと手荒く拭く。
「ごめん……変な所見せた」
泣いていたからか、それともいい大人が子供みたいに泣きじゃくったからか、
サクラは目尻を赤くして我愛羅に笑って見せた。
「いい、構わん」
冷たく言い放つような言い方だったが、今のサクラにはそれが丁度よかった。
「サクラちゃーん!!」
「無事ですか! 僕が来たからには安心です!!」
底抜けに明るい声が二つ。
その声に驚いたサクラは名を呼んだ。
「ナルト! リーさん!?」
ぱちぱちと瞬きをするサクラの姿を見てナルトは喜んだのも束の間、サクラの目が充血している事に気が付き思わずその場に居た我愛羅に噛み付いた。
「我愛羅!! オメーなにサクラちゃん泣かせてるんだよ!」
「そうですよ! 我愛羅君女性を泣かせるだなんて男の風上にも置けませんよ!!」
「……俺じゃない」
キーっと声を上げナルトとリーは我愛羅に詰め寄りあらぬ疑いをかける。
二人に詰め寄られ溜息を吐きながら我愛羅は否定をした。
「ま、まって二人とも……」
まさか二人が我愛羅に詰め寄るとも思わずサクラが止めようと一歩足を踏み出せば、あたりが一瞬冷やりと冷えた気がした。
「どうしたサクラ……何があった」
ジャリっと砂を踏みつけ現れたのはサスケ。
サスケまで現れてサクラはそれこそ驚いた。
「え? サスケ君??」
次から次に出てくる木の葉の忍にサクラは額を押さえた。
「我愛羅……お前か」
腰に差していた刀に触れサスケは我愛羅を見て眉間に一本皺を入れた。
「……だから俺じゃないと言っているだろう」
サスケの決め付けるような発言に、今度は我愛羅が眉間に皺を寄せ睨み合う。
「ま、待って! 待って!! ナルトもサスケくんもリーさんも! 我愛羅くんは私を助けてくれたのよ」
サクラは慌てて言うと我愛羅とサスケの間に入り込み、眉を吊り上げサスケを見た。
サクラのその言葉にサスケは内心舌打ちをしながら「そうかよ」と刀から手を離した。
「サクラちゃん、我愛羅を庇うのかよ!」
「庇ってるわけじゃないわよ! 事実よ! 事実!!」
サクラの行動が面白くないナルトはサクラに詰め寄るが、腰に手を当てサクラは相手にしなかった。
「サクラ! アンタ大丈夫なの!?」
少し遅れて現れたのはいのとサイ。そしてテマリの三人。
サクラはいのの姿を見るや否やぎゅっと奥歯を噛んでいのに飛びついた。
「いのー!」
ぎゅーっといのにしがみ付くサクラを見て男たちは正直、面白くないと思う。
「サクラ、胸は?」
「え? 胸?」
いのとサクラを優しく見ていたテマリは思い出したかのようにサクラに問うが、サクラは一体何の事かと思い首を傾げた。
首を傾げたサクラの前に立ち、テマリは無遠慮にサクラの上着のチャックを引き下ろした。
「!」
突然の事にサクラは反応も出来ず声にならない叫びを上げる。
「なっ……」
女子三人の行動を背後で見ていた男達は突然の光景に瞠目した。
「何やってんだってばよ!!」
あわわと思い声を上げたナルトの声を無視し、テマリはサクラの胸元を見て少しだけ鎖骨の部分を撫でた。
「呪印が消えてる……」
蠢くような禍々しい呪印が消えている事にテマリはサクラの上着を掴んだまま我愛羅を見る。
テマリの視線を受け我愛羅は砕けて折れているご神木を顎で示す。
「あ、あ、あ、あの! テマリさん……!!」
顔を赤くしたサクラは口をぱくぱくと動かしてテマリの名を呼んだ。
「ああ、すまん。すまん」
キュッとチャックを上げ眉を下げて笑うテマリに、もう! とサクラは不満げに言う。
服装を正した所で「あ」と思い出したようにサクラは声を上げて小走りで我愛羅に近づいた。
「我愛羅君、あの子は……」
「……ああ」
腕を組んだままサクラの問いに頷き、砂の塊を目前まで移動させた。
さらさらと流れる砂の塊にサクラは伏せ目がちで視界に入れた。
「なに? なんだってばよ?」
二人の間を割って入るようにナルトが声を掛けるが、砂の中から出てきたものに「ギャーー!!」と叫び声を上げた。
「ほ……骨!?」
「どうしたんですか……まだ子供じゃないですか」
一歩下がったナルトとは別に、リーは砂に包まれた骨を見るとまだ成人しきっていない子供の骨に悲しそうな表情を見せた。
「……今回の騒動の被害者の一人だ」
我愛羅の言葉に顔を上げたサクラは少しだけ驚いて、もう一度少年の骨を見た。
「うん……そうだね……」
少年を庇うような我愛羅の言葉にサクラは言葉に出さなかったが、感謝した。
6:勿忘草
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