少し煩い居酒屋。
此処にくると煩いけれど何故か落ち着く。
ぼんやりとほんの少しだけ遠くから見ているだけで何故だか幸せで。
ぐいっと飲み干したお酒は焼けるほどに熱い。

 にへらと笑っていたら今日は女主人ではなく娘さんが店を切り盛りしていた。
娘さんというより女主人と言おう!

 うんうん、と頭の中で考えていたサクラに女主人が微笑んで見ていた。


「なにかいい事あったの?」
「書庫の整理が上手くいってて」
 年齢的に言えば綱手より少し下ぐらいだろうか。にこりと笑った顔がなんとも可愛らしい。
 
「サクラちゃん、貴女何時までそんな事言っているの……」
 ジトリと見られ、あははと乾いた笑いで返しグラスに口を付けた。
そうは言ってもなぁと少し酔った頭で考えながら、サクラはおでんのタマゴをぱくりと食べる。

 ああ、美味しい。なんて幸せなんだろうか。
そう微笑んだサクラに、女主人は眉を下げて笑っていた。



 ガラガラガラと店内に静かに響くのは、店の扉を開ける音。

「いらっしゃい」 
 女主人が振り向き、入ってきた客人に声を掛けるのを聞き流しながら、おでんをつまんでいたサクラの隣に座る気配を感じ、眉を潜める。

 え、なんでこんなに沢山席空いてるのに態々隣に座るのだろうか。
サクラがぎゅっと眉間に皺を入れたところで隣の人物が女主人に向かって注文をした。


「一杯、頂けないだろうか」
「はいよ! 何がいい?」

 聞こえてきた声にサクラは思わず目を見開き隣に座った人物に、バッと顔を向けた。
 
「どうした?」

 至極当然な顔をしてサクラを見ていた男に思わず呆けた顔をする。


「が、我愛羅君!?」
「……そうだが」

 何を言っているんだお前は。
そんな視線を向けられサクラは隣に座っている同盟国であり、砂隠の風影である我愛羅をまじまじと見てしまう。

「いや、え? なんで?? え? 私今どこに居るの??」

 ぐるりと店内を見渡せばいつも来ている居酒屋。
と言うことは何か、夢でも見ているのであろうか。そんなに飲んでいないのに飲みすぎたのであろうか。
 うーんと唸るサクラを見ていた我愛羅は、相変わらず百面相が面白いと内心思う。

「本物?」
「いつまで言っているんだ」
 未だ疑いの眼差しで我愛羅を見るサクラに溜息を吐き「仕事だ」と告げればサクラは二、三度瞬きを繰り返す。

「……綱手様から聞いてない」
 そう言えばシズネからも何も聞いていないな。まあ、言い忘れていたのだろう。と思った所で、はて? と疑問がサクラの頭を過ぎる。

「あれ? そう言えば一人なの? テマリさんやカンクロウさんは?」

 いつも木の葉に来るときはどちらかが一緒に居るはず。
そう記憶していたサクラが問えば我愛羅は眉間に一本皺を入れ頬杖を付き、
日本酒が注がれているグラスを少しばかり揺らす。

「……逃げてきた」
「へ?」
 我愛羅の言葉にサクラが隣に座る我愛羅の顔を覗き込めば、新緑のような瞳とかち合う。 

「何とかならんのか、火影は……」
「ん、師匠? 何かあったの?」
 そう聞けば深い溜息をひとつ。

「酒癖の悪さは何とかしたほうがいい」
 接待と言う名の酒盛りに、今の時間まで付き合わされていたのか!
サクラはそう理解すると「申し訳ない」と自然と口から出ていた。
 
「シズネ殿が大変だな」
「シズネ先輩にはいつも苦労を掛けてるわ……」
 酒を飲んでやたらと絡んでくる綱手を押さえ、今の内に早く帰りなさい! と一体何度助けられた事か。

 そう考えていたサクラも溜息を一度吐き顔を上げる。
目の前にある器の中身が減っていたことに気が付きサクラは首を傾げ疑問の声をあげた。

「ん?」
「美味い」

 もごもごと口を動かす我愛羅を見てサクラはぱちりと瞬きを一つ。

「ああああ!! 私のおでん!!」
「美味いぞ、これ」
「当たり前でしょ! ここのおでんは美味しいのよ! てか大根!」

 つい椅子から立ち上がり叫ぶサクラを尻目に我愛羅は皿に盛られたおでんをつっついた。

「ぎゅ……牛筋までも!!! 返せ!!」
「馬鹿言うな。返せるわけなかろう」

 くくくと肩を震わせて笑う我愛羅に涙目になりながら「馬鹿! 我愛羅くんの馬鹿!! おでんを返せ!!」と訴えるサクラ達を女主人は笑顔で見ていた。


 夜は更け、居酒屋の喧騒は更に騒がしくなる。
カウンターで騒ぐ二人を見ていたのは女主人だけだった。