「あ、サクラさん! 火影様が呼んでました!」
「え」

 遅刻ギリギリのところで駆け込んだ病院でサクラは後輩のモエギから聞かされた言葉に思わず声を出してう。
ロッカールームで着替えようと上着に手を掛けたところで振り向けばモエギがニコニコと笑っていた。



2:人攫い



「失礼しまーす……あ」
 病院から急ぎ火影塔に向かい、執務室をノックすると少し間をおいた後に、入れ。と聞こえた声に重々しい扉を開け
顔を覗き込ませるとそこには綱手とシズネ、トントン以外の人物が居たので思わず声を上げてしまった。


「サクラじゃなか!」
「お久しぶりです!」
 ぺこりと頭を下げ挨拶をするとニコニコ笑いながら目の前に立ち、サクラの肩をバンバンと叩いたのは砂の忍であるテマリ。
顔を上げればその奥にはカンクロが「よう!」と言いながら軽く手を上げ、
その横には我愛羅が立っていたがサクラを一瞥すると、ふいっと視線を逸らしてしまった。

 来た時が不味かっただろか。
いくら綱手に呼ばれたとは言え我愛羅が綱手と仕事の話をすると言っていたのをサクラは思い出し、しまったな。と心の中で呟いた。


「あの、綱手様呼ばれたと聞きましたが……後で来ますね!」
 流石に里と里の話し合いだろう。そこに一忍がいるのは場違いだと思いサクラはくるりと振り返り、
立った今来たばかりの廊下へ出ようとドアノブに手を置いた。

「待て、サクラ!」
「はい!」

 少し硬い綱手の声。
椅子に座ったまま顔の前で指を交差させていた綱手の雰囲気はどこか異様だった。

 私は何をしただろうか。
今この場で呼び出されなければいけないほどの何か失敗をしただろうか。
頭の中で綱手に言いつけられた事、最近の仕事内容を思い出してもコレと言って思い当たるものがない。
 サクラは少し首を捻り綱手を見た。


「サクラ……」
「はい?」
 ゴゴゴゴと綱手の背後から何か音が聞こえてきそうな雰囲気にサクラは思わず姿勢を正す。

「砂のチヨ殿の墓参りは行くよな」
「……はい?」

 どこかで聞いたことのある質問だ。
きゅっと眉を下げたサクラを見て綱手は念を押すようにもう一度、行くよな。と断言した。

「はぁ……休暇が貰えるなら……でも綱手様いつも中々くれないじゃないですか」
「当たり前だ! お前に二週間も里を抜けられては困る!」
 バン! と机を叩く綱手に益々意味が分からずサクラはクイっと首を傾げた。

「……火影」
「分かってる!」
 我愛羅が綱手を見れば綱手は顔を顰めて背凭れに体重を預ける。

「サクラ、チヨ殿の墓参りのついでに頼まれごとをしてくれないか」
「頼まれごと? ですか」
 コクリと頷いた綱手の瞳が至極真剣だったのを見てサクラは顔を引き締める。

「砂隠れで今流行り病が蔓延していると聞く。それの原因解明をお前に頼みたい」
「流行病ですか」
 チラリと隣に立つテマリを見れば困ったように笑うだけ。
サクラは視線を綱手に戻し少し不安げに綱手に問う。

「流行病なら、テマリさん達は……」
 大丈夫なのだろうか。そう瞳だけで訴えるサクラに綱手は頷き安心しろと言葉を返す。

「詳しくは我愛羅達と砂隠れの医忍に聞いてくれ」
 その言葉にサクラは我愛羅の顔を見て、少しだけ息を吐いた。

「砂隠れに赴く期間はどれぐらいですか?」

 原因解明と言えど、新しい病の場合原因解明や治療方法などすぐ解明するものではない。
決められた期間内にどれだけ原因解明をし、どこまでの治療方法を見つけられるかだ。
 サクラが綱手を見れば、何故だか綱手は視線を逸らす。
一体どういうことだと思い「綱手様?」と名を呼べば苦々しい表情を浮かべた。

「……無い」
「はい……?」

 綱手の返答の意味が直ぐに理解できずにサクラはパチパチと瞬きをして疑問の声を上げた。

「え? どういうことですか?」
「だから期間は無い! 早ければ半年、長ければ五年……いやもしかすると十年……」

 綱手の言葉にサクラは頭がぐらりと揺れる。

「え? ええ? どういう……!?」
 事だ。と言いたかったが頭の処理が追いつかないサクラは驚くしかなかった。

「サクラ……ごめんなさい」
「シズネ先輩……」
 今までただ聞いていたシズネがトントンを抱き抱えサクラに対して謝罪をする。
姉弟子の言葉にサクラはそれこそどうしたのかと瞳を揺らした。


「昨日、綱手様が『賭け』に負けてね……」
「はい……!?」

 賭け!? 賭けとはなんだ!?
バッと綱手に顔をむければ視線をそらされる。

「まさか、あそこでロイヤルストレートフラッシュがくるとは……!」
「いやいや!!」
 バン! と机を叩く綱手にサクラは、え!そっち!? と思い声上げる。


「スマン、サクラ! 思いの外カンクロウが強かったんだ」
「いや、て言うかアンタが弱すぎるだけじゃん」
「ちょっと待って下さいよ!!」

 そんな事って! 思わずサクラが綱手を問い詰めようと綱手の前に歩き進めば、目前にペラリと紙が現れた。
一体何かと思い、パチパチと瞬きをするサクラの前に我愛羅が紙を一枚見せた。

「誓約書だ。火影の判が押してある」
「嘘!」

 その紙を我愛羅から奪うように手に取ればそこにはしっかり綱手のサインと火影の判も押されていた。

「つ、綱手様……!!」
「いやーすまん、すまん! 押してしまったものは取り消せん。悪い!」

 カラリと言う綱手にサクラはうう、と少しだけ口元をへの字に曲げ隣に立つ我愛羅を見た。
ジッと新緑のような瞳がサクラを見たがその瞳には、断ることはさせん。と強い意志が垣間見えた。

「分かりました。行きますよ!」
 もう判が押されているから断れないし! と付け加えればシズネがごめんなさいね。と謝罪した。


 ここまでされるということは自分の医療技術を認めてもらえているからだろうと前向きに考える。
それに綱手のあの物言いは我愛羅達から話を聞いた時点で自分自身を派遣させるつもりであったのだろう。
 サクラはそう思うと今まで頑張ってきた甲斐があったかなと納得させた。


「あ」
「どうした?」
 そうだ。と呟いたサクラに綱手は視線を向ける。

「皆に……特にナルト達になんて言おう……」
「……しまった」

 サクラの言葉に綱手は大きな溜息を吐いて頭を抱え込んでいた。