「まぁ、帰って来れないわけじゃないから安心しろ!」

 カラリと笑う綱手に今度のボーナスは弾んでくださいね! と笑って返せば考えておこうと笑うのを見てサクラも笑顔で返す。
互いに、あはははは! と声を上げて笑った後に盛大に溜息を吐いた。


「笑い事じゃないですよ。どう説明するんですか」
「どうもこうも……仕事だ。これはサクラの任務だ。あいつ等が口を挟む事じゃない」
「一筋縄で行けばいいですけど……」

 シズネと綱手の目の前でのやり取りにテマリがサクラに問う。
「何か問題があるのか?」
「あー……この前の件からちょっと」
 ポツリと呟くサクラに、ああ。とテマリは納得する。

「そうか、そうだな。まだ一ヶ月ほどしか経ってないからな。心配するのも当然か」
 と腰に手を当てテマリは納得をするが、サクラは首を横に振る。

「いえ……過保護すぎて……」
 ストレスで爆発してしまいそうです。と顔を両手で押さえるとテマリが「大変だねぇ……」と優しく頭を撫でた。

「まぁ、とにかく! 出発は明日だ。サクラ準備をしっかりしておけよ!」
「はい。分かりました」
 コクリと頷いて、準備があるので失礼します。とサクラが執務室を出て行くのを見送り綱手は、さてと声を出して立ち上がる。


「約束だからな、サクラを砂に派遣する。が条件がある」
「この期に及んで条件か……」
 綱手を見て我愛羅はなんだ。と視線を向ける。

「あの子は無理をする。限界だと思ったら無理にでも休ませろ。私が見ていない所だと直ぐ無茶をする」
「確かにそうですね。研究期間になると家にも帰らず没頭しますし」
 サクラの行動を裏付けるようにシズネがサクラの行動を思い出す。

「それと」
「……まだあるのか」
 判を押したのはお前だ。と言う視線で眉間に皺を寄せる我愛羅に綱手は目に力を込めた。


「あの子に変な輩が付くのを阻止しろ」
「はぁ?」
 思わず間の抜けた声が出る我愛羅だったが綱手は気にした様子も無く、里が一望できる窓の前に立ち里を眺める。

「良くも悪くもあの子は純粋だ。あの子は情に流されやすい、変な男にでも引っかかってみろ……」
 その時はお前達を許さんからな。と言う目で我愛羅達を睨みつける綱手に、テマリとカンクロウは「お、おう!」と冷や汗を掻きながら頷いた。


 やれやれ。ここにも過保護なものが居たかと我愛羅は肩を竦める。
綱手に脅える姉と兄を見てふぅ。と息を吐いた。

「テマリ、カンクロウ、先に戻っているぞ」
「あ、わかったよ!」
「おい我愛羅! 書類!」
「お前が持っていろ」

 カンクロウが手に取った書類を一瞥し、そう告げるとバタンと扉を閉めた。


「じゃぁ、私達もそろそろ……」
「明日には帰るから観光でもしていくじゃん」
 テマリとカンクロウの言葉を聞き、綱手は腕を伸ばし二人の首根っこを捕まえる。

「お前達は私と一緒に今日も飲みに付き合ってもらうぞ」
「うへぇ……」
「綱手様、諦めた方がいいのでは……」
 昨日のリベンジだ! と舌を巻く綱手にテマリとカンクロウは項垂れるしかなかった。





 ***



 もういっその事ナルト達には何も言わずに任務に出てしまおうか。
いやでも、その場合砂隠れに押しかけてきそうで怖いなぁ……
うーん、と悩むサクラだが取り合えず、いのとテンテン、ヒナタに伝えればそれとなく耳に入るだろう。
そう考え、よし! とりあえず今日夕ご飯を一緒に食べに行こうかな。

「あ、でも居酒屋に顔出しておきたいな……」

 まだ陽が高いが挨拶ぐらいしておこうかな。と考えれば足早に裏路地に入り近道をする。
今はまだ静かな街道を歩いて目的の居酒屋に向かえば、珍しく暖簾が出ているので首を少しだけ捻った。

「うん? いつも夕方からなのに……」
 そう思いつつも、暖簾をくぐり酒屋の扉をガラガラと開ける。

「あら、いらっしゃい。珍しいねこんな時間に」
「こんにちは、そちらこそどうしたんですか? いつもは夕方からなのに……」
 とサクラが女店主に質問しているなか、視線の端で揺れる赤茶色を見つけた。

「が、我愛羅くん!?」
 驚きの声を上げるサクラに、我愛羅はチラリとサクラを見ただけですぐさま視線を戻し、
綺麗な箸使いで大根を一口サイズに切るとパクリと口に入れてしまう。
 昨日の夜、しきりに上手いと目を輝かせていたのを思い出したサクラは、よほど此処のおでんが気に入ったのかと思い少しだけ微笑んだ。

「気に入ったの? ここのおでん」
「ああ、砂隠れに持って帰りたいぐらいだ……」
「あら、嬉しいわね。それを聞いたらきっとお母さんも喜ぶわ」
 ふふふと笑う女主人に「サクラちゃんもこっちにいらっしゃい」と促され我愛羅の隣に腰を下ろした。

「それにしても珍しいですね。この時間にお店開けてるなんて」
「最近は週一ぐらいでお昼も開けているのよ」
「そうなんですね。知らなかった!」
 へーと言いながらぐるりとお店の中を見渡すサクラは、暫く此処にはこれないのか。と少しだけ寂しさを覚えた。

「それよりサクラちゃんどうしたの? 今日お休み?」
「あ、いえ、あの……」
 隣でおでんを黙々と食べている我愛羅を一瞥した後視線を女店主に戻し眉を少しだけ下げて笑う。

「暫く此処に来れないから挨拶しておこうと思いまして……」
「そうなの! あら、お仕事?」
 頬に手を当て女店主は残念そうな表情を浮かべる。

「はい、暫くは砂隠れに行く事になりまして」
 そう言い出された緑茶を一口飲む。
口の堅い女店主ならば言っても大丈夫かと思い行き先を告げると、カウンター越しに立つ女店主は首をかしげ我愛羅を一度見た。


「……お嫁さん?」
「ぶふっ!」
 ぽつりと呟いた女店主の言葉にサクラは思わず噴出してしまった。

「ち、違いますよ!!」
「あらそう? お似合いだと思うけど」
 何を言っているのだ、この人は! そう思いながらサクラが違います! と両手を胸元で振れば隣からジッと視線を感じた。

「な、何……?」
 違うことは事実なもんで否定をしたがもっと他に言い方があったかもしれない。もしかすると気分を害したかもしれない。
そう思いながら我愛羅を見れば特に気分を害したわけでもなさそうだった。


「サクラは面白いな」

 目元を柔らかくして笑う我愛羅に、サクラは一瞬息が止まり少しだけ目を見開いた。

「面白くない!!」
 キーっと叫ぶサクラを見ながら女店主は、あらあら。と微笑んでいるだけだった。