カラカラと音を立て戸を閉める音。
ご馳走様でした! と言えばお仕事頑張ってね。と手を振られたので元気に返事を返してお店を後にする。
 サクラの後に続いて我愛羅も店を出てきたのでどうしたものか、と思ったがこれから仕事で関わるのだと思えば少しでも仲良くなっておいた方がいいだろうと考え くるりと振り返りサクラは我愛羅を見上げた。


「我愛羅くんはこれからどうするの? ただお昼食べにきただけだったのね」
「ああ、腹が減ってたからな。視察も兼ねて里を見ようかと思う」
 こんな時じゃないと自由に出来んからな。
そう言った我愛羅に、それもそうだな。とサクラは頷いた。

「じゃぁ、私が案内してあげるわよ! 美味しいラーメン屋とか居酒屋とか甘味処とか!」
「……甘味はいい……」
 眉間に皺を寄せ甘味はいいと再度呟く我愛羅に、そんなに嫌がらなくても。とサクラは苦笑いをしたがまぁいいや。と思い大通りを指差した。

「じゃぁ、行きましょう。大通りにはお土産屋さんや工芸品もあるのよ」
「そうか。すまない」
「何言ってるのよ! これから砂隠れで暫くお世話になるんだし、遠慮しないでよ!」
 バシバシと背中を叩くサクラに火影に似ているな……と我愛羅は内心思うが大人しく叩かれているだけだった。





 穏やかに談笑しながら里内を案内するサクラと砂隠れの風影が共に行動しているのを物珍しそうに見る視線に二人は特に気にする様子もない。
サクラが説明して、我愛羅が問う。我愛羅が質問を投げかければサクラが返答する。

「これはなんだ」
「それはね、火の国を遊牧している民族の工芸品よ。中々手に入らないのよ」
「なるほど……」

 ふむ、と頷く我愛羅を見てサクラは少しだけ目元を和らげ微笑んだ。
自里を大切に想う我愛羅に、成長したんだなぁ。と見ればふと中忍試験の記憶を思い出す。

 あ、そう言えばあの時我愛羅くんに殺されかけたんだっけ。
そう思えばサクラは不思議ねぇ。とふふっと笑う。

「……なんだ」

 サクラが突然笑った事に我愛羅は少し眉間に皺を寄せサクラを見るが「なんでもないわよ」と言われ首を傾げた。

「お前はよく分からん……」
「あら、そうかしら?」
 我愛羅くんほどじゃないわよ。カラカラと笑うサクラにふいっと視線を外した我愛羅はぎゅと眉間に皺を寄せて息を吐いた。





「サ、サ、サクラちゃん!!!???」

 口をぱくぱくと動かして我愛羅とサクラの目の前に現れたのはナルト。
我愛羅はナルトの表情と、その後ろに居た男を見て面倒だな、と思いもう一度だけ息を吐く。

「あら、ナルトじゃない。それにサスケくんも! 任務はもう終わったの?」
 にこやかに笑いながらナルトとサスケに近づくサクラだがサスケの目元が少し細くなるのを見て、どうしたの? と首を傾げた。

「サクラちゃん!! なんで我愛羅と一緒に居るんだってばよ!」
 むきゃーと騒ぐナルトに眉を潜めて里の案内よ、案内。と言葉にする。

「案内? 腐るほど木の葉に来ているだろう」
 射る様に我愛羅を見るサスケに「まぁ、まぁ、こんなに自由に動ける事なんて滅多にないらしいから」と言葉を紡ぐが、サスケは一度サクラの顔を見て視線を我愛羅に戻す。

「へぇ……」
 短い言葉で睨みつけるサスケに我愛羅はない眉を潜めるように吊り上げる。
「何か言いたそうだな」

 一触即発。
 そんな雰囲気の二人を裂くように割ったのはナルトの声だった。


「大体なんでサクラちゃんが我愛羅を案内しなけりゃいけないんだよ! まるでデートみたいじゃんか!」

 デート!? ナルトの言葉に目を見開きサクラは声を上げた。

「何言ってんのよ! そんなわけないじゃない!」
「だって! サクラちゃんじゃなくてもいいわけじゃんか!」
 ギャンギャン吠えるナルトに何をそんなに必死になっているか分からずサクラは肩を竦めた。

「もー……いい加減にしてよ! 何言ってるのよアンタは。サスケくんもなんとか言ってやってよ」
 額を押さえるサクラがサスケに助けを求める様に言葉を投げかけるがサスケからの返答はない。
どうしたのかと思い顔をあげればサスケが射抜くようにサクラを見た。


「お前等どういう関係だ」

 サスケの言葉にサクラの頭がぐらりと揺れた。

「サスケくんまで何を言っているのよ!」
 怪しいと疑われるとは一体どういうことか。
目の前の男二人に苛々しながらサクラは拳を握り締める。


「どういう……?」
 今まで閉口していた我愛羅がぽつりと呟きサクラの顔を見て、サスケに視線を戻せば、暫し考え口を開いた。

「共にね――」
「うわあああああああ!!!」

 突如大きな声をあげ我愛羅の口を両手でバチン!! と塞いだサクラにナルトとサスケは瞠目する。

「……怪しいってばよ」
 ナルトがジロリと見るが、サクラは「ははははは!」と笑い我愛羅の袖を掴み大通りの隅で腰を下ろせば我愛羅も膝を曲げサクラに耳を貸す。




「ちょっと! 我愛羅くん何を言おうとしているのよ!!」
 いくら男女の関係がなかったとは言え、共に一つの布団で寝たということをナルトとサスケに告げえようとした我愛羅にサクラは真っ青に染めた。

「何って……事実だろうが」
「そうだけど……! そうじゃなくって!! あらぬ誤解を与えるからあの二人に!」
「誤解?」
「そうそう! だから昨夜のことは内緒にしてて」
 色々と面倒くさいから! と真剣な表情のサクラに「ああ、分かった」と頷く我愛羅にほっと胸を撫で下ろしたサクラだったが背後からの気配にハッと頭を上げた。

 ヒソヒソと話す我愛羅とサクラの背後に立ち、形のいいサクラの頭をガシリと掴んで見下ろしたサスケは目が笑ってない表情で静かにサクラに問う。

「サクラ、何をしている」
「ひぃい!!」

 思わず悲鳴に似た声をあげサクラは血の気が引く。

「いや、サスケくん。何にもないのよ、なんにも……」
 ひくひくと口元を痙攣させるようにサクラが笑えばサスケの目が鋭くなる。

「サスケ、やめろ」
 脅すようなサスケを見て、よいしょと立ち上がった我愛羅はサクラを庇うように言葉を発した。

「テメェが出しゃばってくんな」
「脅えているだろう」
 今にも火花を散らしそうな我愛羅とサスケの二人の間を怒り気味にナルトが割って入る。

「だから我愛羅!! お前なんだってんだよ!」
 腕を組んだ我愛羅はチラリとサクラを見て少し考えた。


「……言えぬ」

 我愛羅の言葉にサクラは絶句する。
ただただ、誤解を与えるだけの言葉に背筋が凍った。


 あ、死んだかもしれない。