カラリと晴れる太陽が全てを焼き尽くすようにサンサンと光を注ぎ落とす。

 茹だるような暑さに汗を一つ。
深くフードを被り大通りから少し裏路地に入る。

 パタパタと胸元を扇いでも生ぬるい風しか来ないことにサクラは顔を顰めた。

「流行病なんて、まるで嘘みたい」
 ポツリと呟いたサクラは視線を落とし砂埃が舞う地面を眺める。


 砂隠れに来て早一ヶ月。
サクラは砂隠れの格差を肌で感じていた。
研究の合間に砂隠れの里内に目を向ければいまだ色濃く残る悪習。

 金のあるものは我が物顔で道の真ん中を歩き、金の無いも者は下を向いて逃げるように急ぎ足だ。
裕福な者は、金のない者や身寄りのない者をまるでゴミのように見ているのにサクラは眉を顰める事しかできなかった。


 木の葉の里も貧困差はあるが、砂隠れ程ではない。
綱手が医療に従ずる事もあり貧しくとも病院に行ける制度を施し、尚且つ医療に関わる全てのものは
身寄りの無い子供や戦争孤児、果ては体が動かぬ年配者の元まで研修とカウンセリングと言う名目で無償で治療を施しているのだ。

 その体制をしくまで綱手がどれだけ苦労してきたか見てきたサクラはそう簡単に砂でこうしましょう! とは言え無かった。

 圧倒的に違うのが医者の数。
ただでさえ病院に来る患者だけで手一杯と言うのに貧しい者達の元へいける医者を輩出することが出来るわけもない。
 サクラはその現状がただ、もどかしいと拳を握り締めるしか出来ない。


 流行病とはよく言ったものだ、とサクラは思っていた。


実質被害に合っているのは身寄りの無い子供達だ。
 砂隠れに来て医療忍者と我愛羅から聞いたのは突然吐血した子供が目を覚まさぬという事。

 何故、身寄りの無い子供達が? と言う疑問は直ぐに解決した。
数十年前に砂隠れ近郊で流行ったウイルス性の病気。
体内に入り込めば体の細胞を壊し死に至らしめるというもの。
その病原体となる媒体を駆逐し、ワクチンの摂取で防いだと聞く。
 
 簡単な話だった。お金がある者はワクチン接種ができ、ない者は出来ない。
十数年前流行った当初はそれだけの話だった。


 ここ最近、身寄りの無い子供たちの間で流行っている病が当時と全く同じならば問題は無かったであろう。
サクラが砂隠れの地に来て三週間の間でわかったのはウイルスが故意的に手を加えられたという事。
 調べれば調べるほど、抗体を持っていない子供たちの体から採取されたウィルスはどれもコレも形を変えていたということ。
発祥源がわからぬまま運び込まれてくる子供たちは後を絶たない。

 ぐるぐると考える頭を一度ぶるりと振って思考を停止させる。
考えれば考えるだけ後手になっている事に気がついているのだ。


 はぁ、と息を吐いて木陰で休もうと壁に背を預け汗をタオルで拭えば視界の端でゴソリと動く物体。
動いたものに目を凝らしてみれば薄暗い路地裏で子供が一人倒れていた。

 
「大丈夫!?」
 すぐさま駆け寄り子供の体を起こせば、サクラはあまりの軽さに心臓がゾクリと冷えた気がする。
今し方、買ったばかりの水を肩で呼吸をする少年の口に水をゆっくりと流し込み掌を少年に翳す。

 淡く光るチャクラの色。
首筋からゆっくりと掌を下げ心臓付近で止めた後、耳を少年の胸に近づけた。
 ドクリドクリと弱々しくも生きようと頑張る心音。


「頑張って、必ず助けるから」
 サクラは眉間に皺を寄せ、目の前の消えかけている。
少年に投げかけた言葉は自らに言い聞かせ、少年の命を救うのだと固く誓う。