「以上、ここまでが現在の結果になります」
「そうか」



4:多分それは、





 場所は風影の執務室。
手渡された書類を受け取り視線を落とした我愛羅は丁寧に書かれた文字を追う。

「了解した、引き続き調査を頼む」
「はい」
 目の前に立ちにこりと笑うサクラに我愛羅は視線を向け、ほんの少しだけ眉間に皺を寄せた。
 

「サクラ、お前……」
「どうかしたかしら……?」

 ことりと首を傾げるサクラに我愛羅は一言「顔色が悪い」と告げる。
その言葉にサクラと共に執務室に報告に来ていたテマリもサクラの顔を覗き込む。


「サクラさん、やっぱり体調が悪いんじゃ……」
「大丈夫よ! 全然元気!」
 拳を掲げるサクラに心配そうな表情を見せるマツリ。
まるで空元気のようだ。そう思った我愛羅は「とりあえず休め」と続けたが「そっくりそのままお返しします」と跳ね返されてしまう。

「私よりも我愛羅君のほうが顔色悪いもの」
「……元からだ」
 にーっと笑い憎まれ口を叩くサクラに少々呆れて我愛羅は肩を竦めた。


「うふふ、じゃぁ私は今日はこの辺で……!」
 さて、と息を吐いたサクラに我愛羅の目元がピクリと細くなる。

「あれ? サクラさん今日はもう上がりですか?」
「ええ、午後はお休み頂いたし、ちょっとゆっくりしようかなーって」
 いひひと少しだけ前歯を見せて笑うサクラにマツリは「いいな、お休み」とぽつりと呟く。
そんなサクラとマツリのやり取りを聞きながら我愛羅は机の上にあるテマリからの研究員リストを眺めていた。

 サクラが砂隠れに来て三ヶ月。
ここ半月ほどの研究員達の勤務状況が記されている一覧の中、下部に記載してあったサクラの半月ほどの勤務状況を目に入れる。

 特に休みが多いわけでも勤務態度が悪いわけでもない。
ただ、我愛羅は研究施設に行ったあの日からサクラの行動にどこか引っかかるものを感じていた。
顔を上げ、声をかけようかと思ったところで執務室の扉がノックもなしにガチャリと開かれた。

「我愛羅、報告書……サクラにマツリじゃないか」
 右手に丸めた報告書を持ったテマリが、あれ。と声を上げた。

「サクラ今日休みじゃなかったか?」
「あ、午後からなのでこれからです」
 そうか、と納得し我愛羅に報告書を渡しながら、あ。と声を上げた。

「だったらこれからご飯でも食べに行くか?」
「え!」
 テマリの言葉に少し焦ったように肩を揺らして声を出したサクラに、我愛羅は受け取った報告書から視線だけを向けた。

「あ、今日は宿でお昼を食べようと手配しちゃったので……」
 眉を下げるサクラにテマリは少しだけ目尻を緩めて「そうか」と頷いた。

「また機会があれば一緒に行こう」
「はい! 是非!」
 テマリに笑いかけたサクラが「それでは失礼します」とそそくさと出て行くのを我愛羅達は見送った。




「なにか、隠してるな」 
「ああ、隠してるな」
 我愛羅が呟くように吐いた台詞にテマリがコクリと頷く。

「え、隠してって……」
 二人の言葉にマツリが首を傾げ「やっぱり……」と顎に手を添えて呟いた。

「何か思い当たる節でもあるのかい?」
「思い当たるというか……」
 言葉を濁すマツリに我愛羅が「言ってみろ」と促した。

「実は里の外れでサクラさんを見たという研究員や医療忍者が数人居まして……
それも人目を気にするように周りを警戒していたようです。何か変な事に巻き込まれてなければいいんですが」
 心配そうな表情のマツリの言葉に我愛羅は「里の外れか」と眉間に皺を入れた。

「我愛羅、あそこはあまり手が行き届いていない……」
 サクラを追わせるか? と視線だけで訴えるテマリに我愛羅は首を振った。
 
「いや、俺が行く。少し気になることがある」
 溜息を吐きガタリと椅子から立ち上がる我愛羅に、そうか。とテマリは一言だけ返した。

 行って来る。
そう告げた我愛羅にテマリが行ってらっしゃいと言えば我愛羅は執務室を後にした。


「あの、テマリ様」
「どうした」
 マツリが不安そうに視線を床に向ける。

「大丈夫ですよね、サクラさん。もし敵と内通していたり……」
 そんな事などあってほしくないのだとマツリは願う。

「さあな、正直わからん。分からんが……私は何も心配してないよ」
 笑ったテマリの瞳は何一つ疑っていなかった。