欠伸を噛締め、焼け付くような熱い日差しを遮るようにフードを深く被る。
周りを気にするようにきょろきょろと辺りを見渡して目的の場所に着けば重厚な扉をコンコンとノックをする。


「お姉ちゃん、いらっしゃい!」

 いーっと欠けた歯を見せながら現れたのは、倒れていた所をサクラに助けられたいつかの少年だった。
するりとコートを脱ぎにこりと笑ったのはサクラ。

「皆元気にしてた?」
「勿論だよ。皆元気だよ!」

 早く早く。と少年はサクラの腕を引いて家の中に招き入れる。


 家と言えば家だが、草臥れた家を少しだけ改装して辛うじて住めるようにしただけ。
先の戦争や病気などで親を喪った子供達が身を寄せ合い生きている場所。

 目の前の少年を助けた際、サクラは砂隠れの目に見えない部分を見てしまった気がした。


 我愛羅はいったい何をしているのか!
理不尽な怒りがサクラの中を渦巻いたが直ぐに首を横に振る。
 我愛羅はこの子達を護る為、この子達を助けるために自分を木の葉から連れてきたのだと再認識した。
国と里の間で尽力し頭を悩ませているといつかの酒の席で聞いた事があった。
病院に運ばれてくる子供達を悲痛な瞳で見ているのを知っている。


 師であり影である綱手と砂隠れの若き風影に期待され信用されているのだ。
だったら応えなければ。
そう固く誓ったサクラ拳を握り締め決意した。


「姉ちゃん?」
 玄関先で立ち尽くすサクラにくるりと振り返り少年はサクラを見る。
きょとんとした瞳にサクラはハッとし、すぐさま笑顔を向けた。

「ううん、なんでもないわ。それより今日は何を勉強したいの?」
「昨日の続き! 漢字を覚えたいんだ!」
「そう、皆と一緒に勉強しましょうか」

 少年と目線を合わせ、膝を折ったサクラが優しく微笑むと少年は「うん!」と元気に笑う。

「あ! 遅いと思ったら!」
「おねえちゃん、おなかすいた」
「えー! また勉強!? 俺忍術教わりたいんだけど!」

 薄暗い廊下からわらわらと出てくる子供達一人一人にサクラは言葉を返した。
ごめんなさいね。勉強の前に先にご飯作ろうか。忍術は教えないって言ったでしょ! と言えば、
はーい。と言葉を重ねて返事をしてバタバタと部屋の置くに姿を消していく。

 この家に居るのはサクラが助けた少年を合わせて現在四人。
他に数人居たが流行り病を患い病院に居る二、三人いると言っていた。

 サクラが少年を助ける前日に一人の子供が亡くなったと聞く。
少年はその子の遺体を土に還した帰り道脱水症状と疲労で倒れたらしい。


 どうしてもっと早く気が付いてあげられなかったのだろうか。
砂隠れに来て幾日も経っていた筈なのに。サクラの心を苦いものが蝕んでいく。

 サクラは正直、余計なことをしている感覚もあった。
今現在この里で苦しんでいる子供達はこの子達だけじゃない。
なのにこの子達だけに手を伸ばすのか。
 可笑しい、不公平だ! そんな言葉が飛んでくるのではないかと、そんな言葉が頭を過ぎった時にはサクラの心は決まっていた。

 全員助ける。

 傲慢かもしれない。自分の力を過信しているだけかもしれない。
それでも、懸命に生きようとする命だ。医者として自分は何が出来るのか。
自里だ他里だ関係ない。先の戦争で繋がった絆がある。

 サクラは子供達を見て、太陽のように輝く青年を思い出していた。
同情ではない。そんなものは目の前の少年も、太陽のように輝く青年も喜ばない事なんて百も承知だ。


 そう自分に言い聞かせサクラは秘かに行動を起こしていた。
研究の合間や仕事終わりに子供達の元へ向かい診察をする。
 栄養失調の子供や怪我をそのまま放置して危うく四肢を失う寸前だった子。
砂隠れのどうにも出来ない実態を見た気がした。


 我愛羅くんも頑張ってる。私も頑張らなきゃ。

 うん、と一度頷いたサクラを少年達は首を傾げて見上げていた。




 少しだけ強い風が肌をすり抜け服をパタリパタリとはためかせる。
身寄りのない子供たちの元に向かうサクラを秘かに追えば、微かに聞こえる楽しそうな笑い声。

 腕を組んで背中を壁に預けた我愛羅は一度だけ眼を閉じた。