薄暗い資料室。
頬杖を付いて過去の資料を漁っていたサクラの頭に疑問が浮かぶ。

 過去に同様の病が流行った時、その原因を駆逐をしたとどの資料を読んでもそう記載がしてあった。

「一体誰が……」
 何の目的で。うーんと頭を悩ませ、サクラは考えた。
今回の感染源が分からない限り蔓延することは明白だ。
いくらワクチンを打っていても病原体が変われば意味を成さないことも確実。
故意的にウィルスを変化させるなんて……砂隠れを内部から壊そうとしている人間がいるのかもしれない。

 そう考えた所でサクラは目の前が霞むのを理解し思わずガシガシと擦ってしまう。

「ふぁ……そうだ綱手様に定期連絡出さなきゃ……」
 それにしても眠い。
うつらうつらと首を揺らしていたサクラはそのまま意識を飛ばしてしまった。





「風影様! こんばんは!」
 パタパタと走った幼い女の子がドテッと目の前で扱けてまう。
思わず目を丸くした我愛羅だったが一人の少年が小走りで女の子に近づいき抱き起こした。

「ほら! 走るから!」
「だってぇ……」
 少し舌足らずに話した女の子が眉を下げれば少年がにーっと笑えば欠けた歯が覗き見えた。

「サクラ姉ちゃんが言ってただろう、怪我が治っても無茶しちゃダメだって」
「うー……だって」

 少年の口から出た名前に我愛羅は思わず「サクラ」と言ってしまった。

「風影様知ってるの?」
「サクラおねえちゃんね! 凄いんだよ、しゅばばばばーってお怪我治すんだよ!」
「そうそれに勉強を教えてくれてね! 漢字が書けるようになったんだ!」

 少年達はまさか我愛羅からサクラの名前が出てくると思わず身振り手振りで話し出した。
膝を折り目線を子供達に合わせれば嬉しそうに笑う二人の頭をゆっくりと撫でる。

「でもね、最近サクラおねえちゃんお疲れみたい」
「ん?」
 女の子の言葉に我愛羅は視線を落とす。

「昨日もね目の下に隈があったんだ」
「やっぱりおねえちゃん一人だけじゃたいへんだよ」
 しゅんっと頭を下げる二人に「そうか」と呟いた我愛羅は少しだけ眉間に皺を入れた。


「風影」

 背後から呼ばれ我愛羅は少しだけ首を動かし、名を呼んだ相手を視界に入れる。

「いい加減戻らぬか……その様な子供を相手にしている時間が惜しい」

 そう言葉を落としたのは砂隠れの上役の一人。
その上役は子供達をまるで汚いものでも見るかの様な目をしていた。
 その視線にビクリと肩を震わせ少年は女の子の手を握り締めた。

「ベーだ! お前みたいな爺は嫌いだ!!!」
「なんだと、糞餓鬼共!」

 上役に向かって舌を出し、女の子の手を掴んで走って逃げた少年に上役は酷く憤慨する。

「大体風影があんな餓鬼共を甘やかすからいかんのだ。今回の件とて患ったゴミ共は切り捨てればよいものを。
まあ、思わぬところで木の葉から医療最高峰の娘が来るとは思わなんだ……
このままあの娘を砂隠れに迎え入れれば砂隠れも――」

「それ以上しゃべるな」

 ゆっくりと上役を見る我愛羅の瞳は奥底で憤怒していた。
それに気がついたのか上役は、ひっと小さく声を上げ一歩後ずさる。

「俺は先に戻る」

 そういい残し上役を置いて風影の塔に歩いていく我愛羅を、恨めしい表情で見るしかなかった。