日が沈み、室内を橙に染める空にサクラはガバリと顔を上げる。

「しまった……!」

 椅子から立ち上がればふらりと揺れる足元。
無造作に資料を片付け資料室の鍵を閉める。

「あー……マツリちゃん達もう帰ってるだろうな」
 悪い事をした。調べ物があると告げ施設を後にしたサクラは、明日謝るか。と溜息を吐いた。


 資料室から出て廊下を歩く。
誰も居ないシンとした静かな廊下。
窓の前に立ち、橙から薄暗い紺に染まる空をぼんやりと眺めたサクラの瞳は揺れていた。

 期待に、応えなければ。

 キシキシと痛む頭に眉間に皺を寄せたところで人の気配がし顔を窓から逸らす。
廊下の角を歩き現れた仏頂面にサクラは少し目を大きくした。


「我愛羅くん……」
 姿を見せた我愛羅の纏っている空気が少しだけピリピリしているのに気がついたサクラは僅かに奥歯を噛んだ。

「どう……」
 どうしたの。そう問おうとしたサクラの前にずいっと立った我愛羅を見上げれば、我愛羅の新緑の瞳とカチリとぶつかる。

「サクラ、随分と子供に懐かれたな」
 すっと細くなる我愛羅の目。
視線が逸らせずサクラはぐっと目元に力を入れた。


「お前がここに来た理由は何だ」
 我愛羅の少し低い声色。
何故だか怒っているのを理解したサクラは思わずムッとする。

「来たんじゃなくて連れて来られたんだけど」
「……連れて来られた理由は何だ」

 サクラの言葉に一度目を閉じて再度問い直す。


「砂隠れの子供たちの間で流行している流行病の原因解明とその対処よ」
「そうだ。だったら、」
「だったらなに?あの子達の傍に居て症状と何処から感染しているか調べるのも……」

 我愛羅の言葉を遮り、あくまで研究の一環だとサクラは主張する。

「それが目的ならば奴等に教える必要はないだろう」
「……その合間に教えているだけよ。誰だって学ぶ権利はあるわ」

 互いに引かず睨みつけるような視線。
我愛羅の瞳が微かに揺れ、奥歯を噛締めた。