薄暗い部屋の中、荷物を無造作に投げ置いて倒れるようにベットに寝転がる。
頬に当たるシーツが心地良くてサクラはゆっくりと目を閉じた。
頑張ってるね。と言われるのが好きではなかった。
綱手の弟子になると決めたのは自分。
七班という枠の中で彼等と対等でいたいと思ったのは自分。
彼等が全力で走っていく後姿を見るのが嫌だった。
手を伸ばしてすがり付くことはもうしたくないと思ったのだ。
頑張っているのではない。追いつくためにしなければならなかったことだ。
彼等が自分を信用してくれている事は知っている。痛いほど理解している。
少し追いついたと思えばまたすぐ走っていく。
そしたら私はまた全力で走らなければいけない。
それが、ほんの少しだけ疲れたのかもしれない。
ギュッと握り締めたシーツがカサリと音を立てる。
焦らなくいいと言ったテマリの言葉がじわりと胸に広がっていく。
傷だらけになって乾いていた心が痛かったと悲鳴を上げた気がした。
「馬鹿だなぁ、私……」
期待に応えなきゃ。
その気持ちばかりが先行して、周りで心配している人達の気持ちなんて無視していた。
目を枕にぐいぐいと押し付けて、サクラは溜息を吐いた。
「優しすぎて泣いちゃいそう……」
ぽつりと呟いた言葉が薄暗い部屋に響く。
ぐすりと鼻を鳴らして、サクラは枕を抱き抱えゆっくりと意識を手放した。
ふわり、と優しく額を撫でられる感覚。
ぎゅっと胸にあるふわふわした物に更に力を入れて抱き抱える。
その瞬間に、そこにいる人物が笑った気がした。
思いの外大きな掌。
甘く香る匂いに何故だかとても安心した。
「サクラ、風邪引くなよ」
聞こえた声が、心地良くて。
泣き腫らした目元を撫でられたかと思えば、深い深い闇へと意識が取り込まれてしまった。
***
「我愛羅、遅かったな」
姉兄と住まう屋敷に帰って開口一番に言われた言葉に、そうでもない。と返す。
「夕飯はどうする」
「自分で作る」
そう言った我愛羅にテマリはそうか。と頷いた。
「じゃぁ、私明日早いからもう寝るとするよ」
「ああ、おやすみ」
ひらりと片手を動かし、おやすみ。と述べたテマリの背を見送った我愛羅は誰もいないリビングで小さく息を吐く。
きゅっと蛇口を捻り水を流して手を洗えば冷たい水が心地良い。
ザアアアと流れる水が冷たければ冷たいほど我愛羅の手は熱く燃え上がる気がしていた。
「……行くんじゃなかったな」
サクラの様子が気になった我愛羅は帰りに宿に行けば、部屋の扉が無造作に開いているのに心臓がざわりと主張した。
思わず室内に入ればなんて事はなく、着替えもせずにサクラがベットの上で倒れている様に眠り扱けていた。
安堵すると共に、サクラの顔を見れば泣いている後があった。
気が付けばいつの間にか手を伸ばし目尻を撫で、額を撫でていた。
サクラに触れた指先から燃える様な熱が体に伝う。
まずいな、と思いもう一度だけ目尻を撫でるとサクラが笑ったから我愛羅は思わず奥歯をほんの少し噛み締めた。
誰の夢を見て、誰のために笑うのか。
このまま砂にずっと拘束してしまえたのならば。
木の葉に帰さず、逃がさぬようにどこかに閉じ込めてしまえたのなら。
そんな感情が我愛羅の胸の中で渦巻くのに気が付いて頭を振って掻き消した。
「サクラ」
呼んだ名前は闇に消える。
水で流した掌はどうしようもなく熱くて、切なかった。
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