「え……?」

 声をあげて目をパチパチとさせたサクラとサクラの隣でぽかんと口を開けたマツリの姿。
研究施設の一室。
サクラとマツリの元に姿を表したのは我愛羅。
 サクラと我愛羅二人の様子を交互に見てマツリはそっとサクラに耳打ちした。


「デートですか?」
「んなっ!!」
 マツリの思わぬ言葉にサクラは声を上げマツリを見れば、口元に掌を当てにやにやと笑っていたので思わずマツリの白い頬を軽く捻った。


「……どうした」

 サクラとマツリがこそこそと会話をするのをぼんやりと見ていた我愛羅は首を傾げ問いかける。
はて、自分の発言に何か問題でもあっただろうかと考えた。


「な、んでもないの! あ、後で向かうから!」
 マツリの口元をぱしりと押さえ、サクラは少し頬を染め我愛羅に笑って答えた。

「……そうか」
 一度瞼を閉じた我愛羅はコクリと頷き室内を後にした。






「『後で飲みに行くぞ』だなんてデートのお誘いですよね!」
 爛々と輝く瞳でサクラを見るマツリにサクラは一歩後ずさる。

「ち……違うと思うわよ。仕事の話じゃない?」
 ぐいっと顔を詰めるマツリにサクラは両手を顔の前に上げ、ひくりと口元を動かした。

「えー、あ! でも、大丈夫ですよ。サクラさんの色気で我愛羅先生はイチコロですよね!」
「何を言っているのかしら」
 にこにこ笑いながら、まるでからかっているようなマツリの両頬をむにりと抓る。

「サクラしゃん、いたひれふ……」
「ふざけた事言うからよ。それに、」

 手を離して突然言葉を止めたサクラに、どうしたんですか。と頬を撫でながらマツリは問う。

「里が違うし、身分も違う。住む世界があまりにも違いすぎる」
 見てきた世界も違いすぎる。視線を落とすサクラにマツリは瞬きをした。

「だからこそ、惹かれるんじゃないんですか? 見てきたものが違うから相手がキラキラ輝いて見えるんじゃないんですか」
 首をかしげ不思議そうにサクラを見るマツリにサクラは少しだけ眉を下げた。


「そうね、違うからこそ惹かれるし、知らないからこそ興味を持つんだろうけど……」
 子供の時のように無邪気に好きだと言う事が、ただ、怖かった。


「だけど、少しだけ臆病になったのかもね……」
 好きだと想えば想うほど、相手を追い詰め傷つける。
幼かった恋心が、次ぎへと踏み出す勇気を持たせてはくれなかった。

「サクラさんが今までどんな人を好きになってきたかも知りませんし、聞きませんけど……
我愛羅先生はサクラさんのこと凄く大切に想ってますよ!」
「そうかしら」
「そうですよ!」
 鼻息を荒くするマツリに苦笑いをしながら手元にある薬草の配合が書かれている一覧を手に取った。

「なんで、そんなに味方になってくれるのかしら?」
 手元にある薬草を磨り潰しサクラが問えばマツリはしたり顔で答える。

「サクラさんも我愛羅先生も大好きですもん。幸せになってくれたら私も嬉しいですし!」
「マツリちゃん……」
 じわりと滲む心。サクラが目を細めて少しだけ微笑んだ。


「それに、他里の忍なのにこんなに砂隠れを大切にしてくれてるのってサクラさんだけですし」
 にやりと笑ったマツリの表情が子供のように幼く見えた。

「ふふ、ありがとう」
 笑ったサクラに、ずっと砂隠れに居てくれればいいのに。マツリはそう思ったが言葉に出してしまったら叶わなくなりそうな気がして声に出すのは憚られた。


「サクラさん!」
「ん?」
 視線だけマツリに向け、その先の言葉を促す。

「デート、上手くいくといいですね!」
「だ、だから違うってば!」

 にやにや笑うマツリに頬を染めて否定をした。