タタタンと軽快な音楽。
薄暗い店内にいつの間にか多くの客が姿を現しその視線の先に顔を向ければ、
民族衣装を身に纏った数多くの女性が舞台上で艶かしく踊っている。

「すご……」

 階段を上りきる前に我愛羅は老婆に呼ばれ何やら話していた。
我愛羅を置いて先に店内に戻ったサクラは目の前の光景にほんのり頬を染めて小さく呟いた。




8:渦巻くもの




「ネエチャン、ネエチャン。アンタは参加しないのか」
「ひゃあ!?」

 突然話しかけられたと思えば、サクラはお尻に手が這う感覚に思わず声をあげ振り返える。
ジョッキを持って、見るからに酔っ払っている中年の男がへらへらと笑っていた。

「なにするんですか!」
「いやー、良い尻してるなー。ネエチャンならすぐあの中の主役に成れるぜ」
 舞台上を指差しながら笑う男にサクラは結構です! と跳ね除けるが酔っ払った男はな尚もサクラに絡もうとする。
店内の隅で男に絡まれているサクラに、舞台に熱中している周りの人間が気が付くはずも無い。

 どうしたものか。
どう見ても一般人、その男を殴るわけにもいかない。
 うーんと考えていたサクラの腕を男が掴もうとするよりも早く、
背後から肩を抱き寄せられたと思えば頭上から声が落とされた。


「連れが何か?」
「か、風影様じゃないですか……」

 思わぬ人物の登場に男は酔いが醒めたのか苦笑いをして逃げるように立ち去った。

「お前……背後をやすやすと取られるな」
「面目ない……」
 項垂れるサクラの肩から我愛羅が手を離す。
頬を掻きなんとなく誤魔化すようにサクラが舞台に視線を向ける。

「綺麗な人達よね」
「ん? ああ……」
 舞台で華やかに、笑いながら踊る女性達にサクラ感嘆する。
チラリと視線をサクラに向ければ店内の照明でサクラの頬に明かりが落ちる。
ガリガリと首の後ろを掻いた我愛羅は、なんだ出たいのか? とサクラに問うた。

「……やめてよ、冗談」
 目元を少しだけ細くしたサクラが笑う。
我愛羅にはサクラが何を思っているか分からなかった。


「さて、私お腹減ったわー」
 ぐーっと伸びをするサクラの背を我愛羅は視線で追った。



  ***


 うふふふふと目を細め笑う視線をチクチクと背中に受けながらも、サクラは手を動かした。

「マツリちゃん……」
「はいー」
 サクラに名を呼ばれウキウキと返事をするマツリにサクラはひくりと口の端を吊り上げる。

「随分と機嫌がよさそうじゃない」
 試験管に薬品を入れ、調合一覧に視線を落としたサクラにマツリは手で口元を押さえ、
昨日はどうだったんですか? と嬉しそうにサクラに聞く。

「告白しました? 我愛羅先生どうでした?」
 くふふと笑うマツリにサクラは手袋を外し、人差し指でマツリの額を突っついた。

「もう……ふざけてないで早く製薬手伝ってちょうだい」
「はーい」
 ちぇーと舌を出しながらも返事をしするマツリに、まったくもう。とサクラは心の中で溜息を吐いた。


 にこにこと笑いながら鼻歌を歌うマツリにサクラは視線を向ける。

「機嫌がよさそうね」
「わかりますか?」
 勿論。とサクラが言えば、マツリは内緒ですー。と更に嬉しそうに笑う。
サクラは何となくそれが嬉しくて、目元を細めて穏やかに微笑んだ。

「よーし、夕方までに終わらせるわよ」
「は、はい!」

 こくりと頷きマツリは、穏やかに笑うサクラに内心ほっとしていた。
サクラが纏空気が優しくて嬉しそうだったことに、マツリはまた一つ笑みを零した。