煌びやかな衣装に行き交う人々。
砂隠れの隣に位置する街は、風の国伝統のお祭り真っ只中で各国より人が流れ込んでいる。
キャラバン隊に露天商、果てはサーカスの一団も訪れ活気溢れていた。

「すごい……こんなに人が居るのね」
「ああ、この時期は観光客が訪れる。活気付く反面犯罪も増えるんだがな」
 この時期は人手不足で敵わん。
肩を竦める我愛羅に何処の里も国に振り回されるのは同じか。とサクラはうんうんと頷いた。

「それで、どうすればいいの?」
 観光をしにきたわけではない。我愛羅を見上げたサクラに、ああ。と声を上げる。

「ここから見えるだろう、あの建物だ」
 我愛羅の視線の先にあるのは劇場。
この街の中心に位置するその劇場はそれはまるで神殿のような趣。
厳かな空気を放つその劇場にサクラは目を丸くし感嘆の溜息を吐いた。

「こんな建物があるの……」
 建物を見上げるサクラを物珍しそうに我愛羅は見る。
我愛羅にとって見慣れすぎた建物のため感動なんて微塵も無い。

「楽しそうだな」
 そう問えば、はたりと目を見開いたサクラは「えへへ」と頬を人差し指で掻き苦笑いを見せる。

「つい、探究心が」
「……そうか」

 面目ない。と頭を下げるサクラの形のいい頭にぽんっと手を置いた。


「今回の件が終わった後観光すればいい。普段落ち着く暇も無いだろう」
「そうね、じゃあ我愛羅くんも息抜きに一緒にまわらない? テマリさん達も誘って! きっと楽しいわよ」
 名案だ! と喜ぶサクラに我愛羅は目元を細め少しだけ微笑んだ。

「なんだ、二人じゃないのか」

 我愛羅から落とされた言葉にサクラは、え。と固まった。
揺れる瞳を見てしまい背中に冷や汗を掻く。
数日前のことにはあえて触れず、明確にはしなかったのだ。


 何も知らない幼い時ならば嬉しかった。ただ、ただ純粋に嬉しかったであろう。
だが、手放しで喜べるほどサクラは子供ではなかった。

 臆病な大人だった。


「も、もう……冗談言ってないで行きましょう!」
 劇場を指差しザクザクと歩いていくサクラの背中を見つめ、我愛羅は小さく溜息を吐いた。



 ***



 ジャリジャリと聞こえる砂が擦れる音。
ビュウゥゥと吹く生温い風が頬を撫で髪を揺らす。

 いつの間にか目の前を歩くその姿をぼんやりと見ながらサクラは追う。
サクラの歩幅にあわせゆっくりと歩く我愛羅に、ほんの少しのもどかしさを感じながらもサクラは何も言えずにいた。


「サクラ」
「はいっ!」

 ぼんやりと我愛羅に着いて歩いていただけのサクラは、突然名前が呼ばれるとは思わず返事をする。

「あ……」
 叫ぶように返事をしたサクラが気恥ずかしそうに口元を押さえたのを見て我愛羅は目尻を細めて笑った。

「着いたぞ」
 物腰柔らかい我愛羅の表情に、一瞬呼吸が止まったサクラはコクコクと頷き、目の前に厳かに建つ劇場を見上げた。

「近くで見ると更に凄いわね」
「まあな、昔から存在する建物だからな。今の街並みからすると少し異質かもしれんな」
 そうか、だから異様に存在感を放つのか。
サクラはそう納得させ、視線を劇場の出入り口へと向けると何かに気がついた。

「あれは……!」
「どうした」
 タッと駆けるサクラを追う。
劇場の周りに設備されている植え込み。
植え込みの前で屈んだサクラにもう一度、どうした。と問いかける。

「我愛羅くん、ここ見てて」
 サクラが指差したのは植え込みに咲いている紫の花。
ポーチから取り出したのはサクラとマツリが調合して作った薬。
我愛羅はサクラに言われるがまま視線を花に向けた。

 薬を入れている筒の蓋を取り、そろりと花に液体状の薬を流す。
液体が付着した花はみるみると花弁を真っ白に染めていく。

「これは……」
「やっぱり。この植え込みに咲いている花全部にウィルスが付着しているわ。
触らなければ感染することはないけど、花弁が落ちれば風や虫がウィルスを運ぶわ」
 そうなると感染の拡大を防ぐ事は難しくなるわ。
我愛羅は頷き、抗体薬が足りそうかと問えばサクラの表情は険しくなる。

「正直賭けね。犯人がウイルスをばら撒かなければ大丈夫とは思うけど……」
 顎に手を当て考えるサクラを一瞥し、そうか。と呟いた。


「カンクロウ達と合流するぞ。情報を集めて対策を考えるぞ」
「ええ」

 我愛羅の言葉にコクリと頷き、劇場の入り口を硬く閉ざす古びた扉を開ければ 
軋むような鈍い音が辺りに響き渡った。