そよそよと風に靡き、大輪の花を色付かせた一本の大木。
それは何よりも鮮やかな薄紅色の花弁が静かに笑っていた。




 男が一人。口を歪ませ、腹の底から蔑む様に大きく笑う。
足もとに転がる黒い物体をガツリと蹴り上げ男が地面を踏めば、砂埃が巻き上がる。


「いい気味だな」

 薄暗い洞窟。
僅かな月明かりが微かに辺りを照らし出す。

 男は更に蹴り上げた黒い物体を忌々しい物を見るかのように踏みつけ、舌打ちをする。 


「お前が護ろうとしたもの、護りたかったもの全てを壊してやる」

 あっははははと大きく笑う男の声が薄暗い洞窟に木霊する。
男の足に無残に蹴り飛ばされた黒い塊は、壁にぶつかり砕けてしまった。






 花は咲く咲く、花は咲く
枯れた大地に鮮やかに

 砂は舞う、一片の花弁を風に乗せ
風は運ぶ、嘆きと歓喜を

 さあ、最後の物語を
最後の約束を−−


last story
[花色づきて咲き誇る]