明々と自分の家の明かりが点いているのを見てサクラはよし、と気合を入れる。
帰宅が遅くなった為、我愛羅はもういないかと思っていたため家の明かりが点いている事にほんの少しだけ安堵する。

 ガチャリと音を立て、ゆっくりと玄関を開けて中を覗き見る。
玄関口に我愛羅の靴があるのに気がつき、サクラはその隣に自分の靴を並べて静かに室内に上がりこんだ。


「……我愛羅くーん」

 大して広くないアパート。
何処にいるかなんて限られているため、狭いキッチンを横切りテレビやベットを置いている部屋をそろりと覗き見た。

 もしかすると寝ているかもしれない。
そう思っていたが、ベットの上で仰向けに寝転んでいた我愛羅がガバリと勢いよく身体を起こしサクラを見る。

「サクラ……!」
「た、ただいま……」
 苦笑いをしながら我愛羅に帰宅を伝えるとベットに座り手招きをする。
首を傾げながら我愛羅の目の前に立つと腹の辺りに手を回され、サクラは抱きしめられた。

「おかえり」
「うん、ただいま」

 サクラを抱きしめるように抱きついている我愛羅の、少し跳ねた赤茶色の髪を撫でれば意外と硬い。
指で遊んでいると我愛羅が目元を細めサクラを見上げた。

「……泣いたのか」
「え! いや、その……」

 しどろもどろになるサクラの腕を引き、ベットに転がせば先ほどと一転しサクラは我愛羅に見下ろされる。
散々泣き腫らしたサクラは帰宅する前、顔を洗いバレないようにしていたはずなのにどうしてバレたのかと眉を下げた。

「お前が思っているより、俺はお前を見てるぞ」
「え」

 目を見開き驚くサクラの目尻に唇を落とし、舌で舐めて耳を甘噛みする。

「ちょ、っと……!」

 我愛羅の肩に手を置き静止するサクラだが、我愛羅は手を止めずにサクラの上着に手を掛けた。

「いくらナルトと言えど、他の男のために泣かれるのは少々癪に障る」

 眉間に皺を寄せた我愛羅は噛み付くようにサクラの唇に自分の唇を合わせた。

「んっ! はぁ……!」
 唇を噛まれ、服の中に無造作に手を入れられたサクラは、別の意味で涙を零すしかなかった。
 


 ***


 
 散々と泣かされたサクラは気を失うようにベットに沈む。
汚れたサクラの身体を綺麗に拭い服を着せた後、我愛羅はシャワーを借りて服を身に纏う。
サクラの目元に一度口づけをし髪を撫でればサクラが笑う。

「……また、後で」

 そういい残し、窓に足を掛ければ、くたびれたうさぎのぬいぐるみが揺れた気がした。
一度うさぎのぬいぐるみの頭を撫でた後、我愛羅はもう朝方になろうとしている木の葉の里へと飛び出した。

 少し急ぎ足で我愛羅は里の大通りではなく裏通りへと足を進めれば、暖簾を下げようとしていた白髪の老女を見つけ、我愛羅は声を掛けた。

「申し訳ない」
「ん? アンタは……」

 白髪の老女は頭のてっぺんでお団子にし割烹着を身に纏っていた。

「不躾な願いだが、酒を少しとグラスを貸してくれないだろうか」
 我愛羅の突然の申し出に暖簾を手に持っていたのは、いつもサクラが飲みに来る店の女店主。
じっと、我愛羅の瞳を見つめた女店主は無言で店の扉を開けた。

「ちょっとー、冷やした酒とグラスを出してくれないかい」
「え、お母さんどうしたの?」

 カウンターの奥で洗い物をしていた女が一人振り返る。

「あら? ははーんさてはサクラちゃんね」
 にやりと笑ったのは我愛羅とサクラの二人を見守っていた女主人。
濡れた手をエプロンで拭きながら我愛羅を見る瞳は優しかった。

「あ、いや……そういうわけでは」
 サクラに関することではあるがどう言えばいいか分からず我愛羅は思わず口を噤む。
その様子を見て、はて、見当が外れたか。と女主人は顎に手を当てた。

「あんたもまだまだ甘いねぇ……この若造の目を見れば分かるだろう女じゃないよ」
「あら」

 団子頭の女店主が冷蔵庫から小さい酒瓶を取り出し、グラスを二個カウンターにコトリと置く。

「酒代はいいよ」
「いや、それは……」

 夜分、と言うよりもう朝方。しかも店仕舞いしているところで突然訪問し不躾な願いをしているのに酒代が不要だといわれ 流石にそれは悪すぎると思い我愛羅は懐から財布を取り出そうとする。

「いいよ。詳しくは聞きはしないけど男同士腹割って話さなきゃいけない事もあるんだろ」
「……はい」

 ああ、そういう事か。とピンときた女店主はクスリと笑った。

「そうね、そしたらまた今度サクラちゃんと食べにきてくださいな。その時までツケときますね」
 笑う女二人に我愛羅が一度うなじを掻いて頭を下げれば、気にするなと言われたので言葉に甘えありがたく頂戴した。
 我愛羅が出て行くのを見送った二人は今度こそ暖簾を下げた。

「上手くいくかしら?」
「大丈夫だよ。あの娘が選んだ男とずっと見守ってきた男だろう」

 母を見て、よく知ってたわね。と娘が問えばさっき里内で揉めてたよ。とカラリと笑う。
ああ、どうりで。と娘は納得する。

「今度あの娘が来たときにどうなったか聞くとしようかね」
「それもそうね」

 我愛羅の背中を見送った二人はカラカラと立て付けの悪い扉を開け店の中に入って行った。