バサリと机の上に広げた地図を覗き込み、綱手はそうだ。と声を上げる。

「ナルト、時空間忍術で砂まで飛べるか?」
 その問いに、少しだけ眉間に皺を入れナルトは首を横に振る。

「まだ、上手くできねぇってばよ……ここから飛んでも砂隠れの手前で落ちちまう」
 悔しそうに話すナルトに「そこまで出来れば十分だ」と綱手は顎に手を当てた。

「十分と言うと……?」
「ああ、砂隠れの手前……今のナルトなら多分走って一時間ほどの地点に落とされるだろう。そこから二部隊に別れ行動するんだ」

 ネジの問いに答えた綱手は、広げた地図に視線を戻す。
砂隠れがある地点より、少しだけ木の葉に近い砂漠を指差しする。

「ここで、"木の葉"と"鷹"に分かれて行動する」
「鷹だと……」

 思わぬところで鷹の名が出た事に、サスケは綱手をじっと見た。

「鷹のメンバーにはもう話をしている。いいか、ナルト、ネジ、リーそしていのは砂隠れを正面から突破する」

 綱手の指が、砂漠を伝い砂隠れの正面入り口をカツリと叩き、

「そして、サスケ率いる鷹はナルトの時空間忍術で落ちた地点から迂回し、裏口から砂隠れに潜入する」

 砂隠れの裏門に指先を動かした。


「なるほど、正面の僕等は陽動でサスケくん達が本体を叩く問い訳ですね」
「敵の正体がわからぬ以上用心に越した事はない。ナルト達は砂隠れの忍達の応戦。鷹は敵の正体を調査した後に本柱を叩くことだ」

 綱手の指示にコクリと頷きサスケは「了解した」と短く返答する。

「現場に行くと作戦が変わるだろう、その場合はネジ、お前が指揮を取れ」
「ハイ」

 冷静に答えるネジに綱手は頼んだぞ。と目だけで訴えた。

「いいか、お前達の任務は砂隠れの応戦及び、別任務で砂隠れの大名の護衛についているサクラと大名の娘の状況把握。場合によっては救出だ」

「了解」

 少しばかり緊張感が漂う火影室。
小さく、ピピっと鳴いた鳥の声が小さく響いていた。




「大丈夫、ですかねあの子達」

 綱手の後姿に声を掛けたのは、忍装束に着替えたシズネ。
ちらりと首を動かしてシズネを一瞥し、綱手は里が傍観できるガラス張りの窓前に立つ。

「大丈夫だろう。ナルトももう子供じゃない。理解はしているが気持ちをどう処理していいかまだ迷ってるんだよ。決別するのには時間を要する。周りが口を出す事じゃないよ」

 綱手は優しく笑う。

「そうですね、サクラもナルトくんも進む道が違った。それだけですよね」

 サクラは我愛羅を選び、我愛羅の手を取った。
ただそれだけのこと。
あの子達が共に並び、笑い合う姿を見たかった気もしたが、多分それは違う形で実現されるだろう。

 シズネはふるりと頭を振り、二人は多分大丈夫だと納得させる。

「綱手様、こちらは用意が出来ました。各医忍の準備も万全です」
「よし、サイとカカシ、そしてガイを連れて第二陣で砂隠れに向かえ。砂隠れの医療忍者のバックアップと怪我人の救出作業を優先しろ」

 振り返る綱手に「承知しました!」とシズネが答えれば、シズネの腕の中に納まっていたトントンも同じようにぷぎゃ! と鼻を鳴らした。



 ***


 ジリジリと焼け付くような太陽。
カサリと埃のような空気。

 辺りを舞う砂埃の中にナルト達は包まれていた。


「うげぇ! 何だよこの砂!」
 口の中に入ったー! と声を高らかに上げるたのは香燐。
その横で焼けるように熱い砂の上に倒れこむのは水月。

「無理……無理だよ、干からびるよ……」
「水月立て。体力を消耗するぞ」

 腕を引き、重吾は無理やり水月を立ち上がらせる。

「悪りぃ、やっぱまだ上手くいかねーや」
 後頭部をガリガリと掻くナルトは苦笑いをする。

 広大な砂漠。
ナルトが習得途中である時空間忍術で木の葉隠れから移動を試みたが、先の宣言どおり砂隠れの手前にある砂漠に落とされてしまった。

「もう少し離れているかと思ったが……」

 砂隠れは目と鼻の先。目視で確認できるほど。
ネジは予定より早く砂隠れに着くことが出来るなと目測をし、サスケに視線を向ける。

「ここから二部隊に分かれる。本柱を叩くのが目的だが、あくまで砂隠れの応援だ。目前に負傷者や砂隠れの忍が居れば救出、応戦を優先するんだ」
「……わかってる」

 サスケが行くぞ。と走り出せば後を追うように香燐と水月を抱えた重吾が走っていく。

「大丈夫かしら……」

 抱えられた水月に若干の不安を覚え、いのは肩を竦めた。

「大丈夫だってよ! なんだかんだ言ってアイツ等のチームワークは抜群だからな!」

 にしし、と笑うナルトに「そうですね! 心配いりません!」とリーが笑う。

「さーって、俺たちも正面から行くってばよ!」

 拳を胸元でパシン! と叩きナルトの気合が風に乗る。

 空は快晴。
風はとても穏やかに。不気味なほどに静かに吹いている。