腹を抱え大きな声で不気味に笑うソレにナルトとサスケは顔を顰めた。
「何がそんなに可笑しいんだってばよ」
ナルトの低い声に、ヘドロの塊は体をゆらりと揺らす。
『なにが? これが笑わずにいられるか。血の繋がらない餓鬼の為に自分を犠牲にするなんて大層な正義感じゃないか』
ギョロリと目玉を動かし、倒れている皇后を見下ろし『まあ、いい』と言葉を漏らす。
『その女はまだ利用価値があったんだが……皇后とその息子は、砂隠れの里で反乱に巻き込まれ死亡し、護衛と称して匿っていた娘は砂隠れの忍によって殺された。丁度いい話じゃないか、これで邪魔者は全て居なくなる』
両手を広げ『俺が風の国を統治する為の準備が整った』と大笑いすれば、里内に不気味な笑い声が木霊する。
ヘドロの周りを漂うのはサラサラと音を立てる細かい砂。
ナルトがその砂に気がついた瞬間、ヘドロの顔の部分が砂に引き千切られて分離する。
分離した頭と胴体を大量の砂が握り潰すも、砂は黒く変色し、ヘドロに飲み込まれてしまう。
『随分だなぁ……風影』
べちゃりと音を鳴らし頭と胴体を繋ぎ合せ、我愛羅に向かってヘドロは笑う。
「……お前は、」
私利私欲の為に、過去に命を落とした亡霊が。
今を生きる命を弄ぶなど許せなかった。
「我愛羅……?」
ビリビリと肌を差すような感覚。
ナルトとサスケは我愛羅に対して、久方ぶりに思い出す。
初めて会った、中忍試験の頃のように。
二人は我愛羅に恐怖を思い出した。
ゆっくりと我愛羅が一歩踏み出せば砂がざわりと騒ぎ出す。
耳に残るような、ざわざわと聞こえる砂の音。
気がつけば砂の粒子が辺りを包んでいる。
『民など俺の欲を満たすための玩具でしかない。忍など使い捨てのただの手駒だ。何をそんなに怒っている』
厭らしく笑うその声に、その表情に、
我愛羅がゆっくりと瞼を持ち上げれば、砂が高く泣き声を上げた。
「上に立つ資格も無い」
新緑のような我愛羅の瞳の奥が、鈍く燃えたのは誰も知らない。
淡く輝く穏やかな光。
それを遮ろうと飛び掛るのは、悪臭を放つ塊。
咄嗟に瞼を閉じた少年と少女は、自分達の身体に何も起こらなかったことを疑問に持つ。
恐る恐る瞼を上げれば、目の前には見知らぬ男が二人居た。
「ぁ……」
少年が口を開ければ少しだけ欠けた歯が見え隠れする。
首だけを動かして、歯が欠けた少年を全身緑を身に纏った、リーが見た。
さっと右の親指を立て、人の良さそうな表情でリーは笑う。
「ここは僕等に任せて君は治療に専念してください」
「敵は一匹も通さん」
右手を真っ直ぐ伸ばし、目前の敵とネジは睨み合う。
リーとネジに背を任せ、傷ついた皇后の前で腰を下ろし片膝を地面に付いたいのは、少しばかり驚いた表情を見せた。
「……独学?」
少年を見ていのは問う。
その視線に少年はふるふると首を横に振る。
「……違うよ。サクラ姉ちゃんから教えてもらったんだ。本当はまだ上手くコントロール出来て無いから使っちゃ駄目だって言われたんだけど、でもここで使わないときっと後悔する」
ぐっと眉間に皺を入れ、不安そうに見上げる少年にいのはニコリと笑って見せた。
「大丈夫、寧ろいい判断だわ」
それに抜群のチャクラコントロール。
忍ではなさそうな少年が、この歳でどれだけ努力をしたのだろうか。
綱手第二号と言われるサクラの指導を忠実に受けているのであろう。
しっかりと根付いているのだ。
サクラがきっと、これから共に歩んでいくだろう里の子供にしっかりと。
(サクラ、いつかアンタの口からちゃんと聞かせてよね)
だからどうか、無事で居てくれと心の中で願うのだ。
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