焼け付くような太陽の光だって。
砂埃を上げながら吹く風だって、肌で感じていられるのは生きている証。
今のサクラにとって、世界はとても透明で、キラキラ輝く物に見えていた。
「前線にはまだ出れないけど、これだけチャクラも扱えれば十分よね」
手を数回握り締め、目で確認する。
生きてる。
何度だって、今、自分が生きているということに感謝する。
約一ヶ月も寝たきりだったのだ。
身体が鈍っているのは多少仕方がない。
だが、木の葉にまでの距離を自分の足で帰れるようにならないとただの足手纏いだ。
病院を出たサクラは日差しを避ける為黒いローブを身に纏う。
里内を一週歩くだけでも相当な体力を使う。
サクラはリハビリを兼ねて、砂隠れの里をゆっくりと歩き出した。
あの日、里内で何があったか詳しくは知らない。
だが、目を覚まし、歩けるほどまで回復したサクラが見たものは砂隠れの里が半壊していた。
幸いにも被害は最小限に抑えたと聞く。
それでも深手を負った者や、命を落とした者が居る。
助けられた事には、意味があるのかもしれない。
少しでも、砂隠れに何か返せればいいとサクラは考えた。
「サクラ! 調子はどう何だい」
里の大通り。少し遠くから聞こえた声。
その声に振り向けば手を上げ名を呼んだテマリが居た。
「テマリさん、お陰様で絶好調です」
笑いながらテマリに近づき、こんにちは。と挨拶をする。
その言葉に笑っていたテマリが「おや?」と声を上げにやりと笑った。
「サクラ、あんた良かったね。私は嬉しいよ」
「へ?」
何のことだろうか。
テマリが両肩に手を置いて、若干涙目になっているのにサクラは首をかしげどうしたのかと問う。
「ん? もしかして……?」
サクラが身に纏っているローブの合わせ目。
きらりと輝くネックレスにテマリは腕を伸ばし、手のひらに乗せた。
「これ、我愛羅からもらったんだろ?」
よもや他の男じゃないだろうね。
険しい剣幕で見るテマリに、サクラは両手を振る。
「我愛羅くんからですよ、これ! 初めてプレゼントもらったんですよ!」
サクラの喜ぶ言葉とは裏腹に、テマリは額を押さえ眉を吊り上げる。
「まったく……あの子は肝心な所でいつも言わないんだよね」
だけどこのままだと我愛羅は肝心な事を言わないかもしれない。
ここは姉としてそれとなく気がつかせるべきか。
うんうん悩んだテマリは、よし。と頷いた。
「サクラ、それはな意味があるんだ」
「意味……ですか?」
我愛羅にもらったネックレスの、加工されたアミュレットを掲げる。
きらりと太陽のように輝くのが綺麗で、サクラはにこりと微笑んだ。
「あ、うーん……砂隠れではね、大切な人とこれからを歩みたいって言う時に相手の誕生石のネックレスを贈る風習があるんだ」
「歩みたい……?」
いまいちピンと来ていないサクラにテマリは言葉を続ける。
「もし、受け取り側も同じ想いで共に歩みたいと思うならお返しに相手の誕生石の指輪を贈るんだ。もし、受け取れないならばそのネックレスを白いチューリップ一輪と共に返すんだ」
それって……?
首を傾げていたサクラも何となくわかったのか、頬をほんのりと染めた。
「テ、テ、テマリさん……! わた、私、そんなこと知らない! 我愛羅くんも何も言ってなかった!」
テマリの腕を掴み動揺するサクラに、そうだろな! 知っていたらこんな所でのほほんとしていないだろう!
まったくあの子は……!
「サクラ、アンタが決めることだ」
正直言えば、姉として共に歩んでほしいと思う。
ここまであの子が誰かを愛し、感情を露にし、人らしく生きている。これほど嬉しい事はない。
だけど、里がある。国がある。仲間が居る。家族が居る。
彼女が別離に道を選んだとしても、受け入れるしかないのだ。
それは悲しいことだけど。
「あ、サクラさーん!」
サクラとテマリを見つけ、手を振りながらかけてくるマツリ。
なんだかにこにこと笑っていたのでサクラとテマリは顔を見合わせた。
「どうしたんだい?」
「あ、テマリさん! うふふ、今ですね里内で噂になってるんですよ!」
口元に手を押さえ笑うマツリになんだ。と促せば、マツリはサクラを見た。
「サクラさん、おめでとうございます!」
「え?」
何をおめでとうと言われたのだろうか。
ある程度回復した事に対してだろうか、うん。
そう思い、ありがとうと言おうとしたサクラの言葉をマツリが遮ってしまった。
「噂になってますよ! ついに我愛羅先生がサクラさんにプロポーズしたって! 嬉しそうにサクラさんがネックレス見ていたのを何人も目撃してますしー」
あ、それとなく伝えた意味が無かった。
マツリの言葉にそう思ったテマリはチラリとサクラの顔を見た。
そこには、これでもかと言うほどに顔を真っ赤に染めたサクラ。
体をぷるぷると震わして両手で顔を覆った。
「……ちょっと、私行って来ます」
ゆらりと動いたサクラは一度柱にぶつかったが、突如全力で里内を走り去ってしまった。
「あれ……? 私何かまずいこと言っちゃいました?」
「いいやー……ただの恥かしさだろう」
不安げに問うマツリの肩にぽんと手を置き、テマリは笑う。
知らぬまま里内を歩いていたサクラはさぞ恥かしかっただろうな。
そう思いつつも、嬉しそうにしていたサクラを想像しテマリは笑う。
あの子を愛してくれてありがとう。
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