穏やかな。とても穏やかな日中。
くすりくすりと聞こえる笑い声。
何となく声の方向に視線を向ければ、決して砂隠れでは色づくことの無い花の名を持つ少女の姿。

 他里の忍がこんなにも笑うもんかね。

 何となく、本当に何となくそのままぼんやりと見つめてしまった。


 第四次忍界対戦。
その戦争が終わりを告げ早数年。五大国で交流が盛んになる中、
砂隠れと木の葉隠れの繋がりはより強固なものになった。
今では、派遣や使節団と言った名前で選抜された忍達が他里に滞在するのも珍しく無くなった。

 特に砂隠れに関しては致命的な医療忍者の不足。
それを解消する為に木の葉隠れから、腕の立つ医療忍者が派遣される。
その中でも「春野サクラ」彼女は別格だった。
確かに薬草学や毒物に関しては砂忍のほうが知識や技術は高かったりする。
だが、知らぬ知識を見事に吸収し自分の持っている知識と併用し、
砂隠れには無い技術は勿論のこと、今の砂隠れでも出来る治療方法の選出が何よりも上手かった。

 今や木の葉と砂のパイプ役。
今の彼女なら木の葉も砂も、薬一つで落とすのは簡単だろう。
なんせ、両里の影に近しい立ち位置なのだから。

(まあ、そんなことするとは到底思えないじゃん)

 つらつらと考え事が頭の中を過ぎるが、現風影の兄であり、側近であるカンクロウは、未だにこやかに話す「春野サクラ」をぼんやりと眺めていた。

「それで、サクラさんは木の葉に彼氏とかいらっしゃるんですか?」
「え? 居ないですよ」

 やだなー。そう笑うサクラに聞いたのは砂隠れの若い、男の医療忍者。
サクラの返答に嬉々とした男は「それじゃあ」と両手を上げて、その手でサクラの手を掴もうと、した。

「何してんじゃん」

 カンクロウにとってサクラは他里の忍で監視と護衛の対象で、自分の命を助けてくれた恩人。それだけなのだ。

「カ、カンクロウ様……!」
「カンクロウさん、こんにちは!」

 動揺を見せた男とは裏腹に、サクラはカンクロウの姿を見てにこやかに挨拶をする。

「あれ? 今日は非番ですか」
「ああ、久々の休みじゃん。そういうお前らはこんな所で何してんだよ」

 隈取をしておらず、私服で現れたカンクロウが再度問いかけをすればサクラは「仕事の買出しですよ」と返事をする。

「ストックが切れそうな薬品などを買出しにきて、彼は一緒に付いて来てくれたんです」

 経緯を説明するサクラにカンクロウは「ふーん」と小さく言葉を発し男を見る。
カンクロウの視線に男は視線を必死で「荷物持ちですよ! 大変そうでしたし!」と言い訳がましく訴えかけた。

「別に何も言ってねぇだろう」
「は、はい……」

 縮こまる男に小さく溜息を吐いて、そうだ。とカンクロウは声を上げた。

「だらしねぇ顔すんなよ」
「はいぃ……!」

 男はビクリと盛大に肩を震わせて声を上げた。
何をそんなに脅える事があるのか。
そう考えたが、やましい心があるからなのだろうな。そう思い、もう一度溜息を吐いた。

「お前は先に戻ってろ、荷物なら俺が代わりに持って行ってやる」
「え」

 カンクロウの言葉に声を上げたのはサクラ。
男は遠慮するかと思ったが、素直に言う事を聞き全力で走り去ってしまった。

「どうしたんですかね、彼……」
「なんか用事でもあったんじゃねぇの?」

 走り去っていく男の背を見送り、サクラが首を傾げるのに適当にカンクロウは答えた。

 変な虫でもついたら、言われるのはこっちだ。
気苦労が絶えないカンクロウの気持ちなど露知らず。
サクラは、変なの。そう眉を下げてクスリと笑っていた。


1.些細なおしゃべりで、(笑う)
 → 2.ひどく曖昧に、