「サクラって変だよな」

 姉と弟との夕飯時。
ついぽつりと呟いた言葉に、目の前の二人が目を丸くするのが忘れられなかった。

「変っつーか変わってる。お前らサクラの事どう思う?」

 それはただの純粋な疑問。
他意は何一つとしてない、ただの疑問。
食事時に姉弟に疑問を問いかけるのはなんら変なことではない。

 カンクロウの言葉に、テマリと我愛羅は互いに瞬きをして思わず顔を見合わせた。
全く同じような行動をする二人に、やっぱり姉と弟だなー。そっくりだ。と心の中で思いながらカボチャのスープを一口飲んだ。

「お前、あの子に惚れてんのかい?」

 思いもよらないテマリの言葉に思わず口に含んでいたスープを、ぶはっ! と吐き出してしまう。
テマリが「汚い!」と布巾を投げつければカンクロウの顔面にヒットする。

「大体……あの子が惚れてんのは"うちはサスケ"だろ?」
「……似ても似つかんな」

 二人して「無理無理」と声を揃えて手を振るので、カンクロウは思わず口元をヒクリと歪めた。

「もういい! さっさとメシ食え!」

 大体今日の夕飯だって作ったのは俺じゃん!
昼間サクラの買い物に付き合って、帰宅後二人が「カボチャが食べたい」とか言い出すから買出しにまで行ったというのにこの言われよう!

 キーっと心の中でハンカチを噛締めたカンクロウが一足先に食事を終え席を立つ。

「後で食器洗うから、流しにつけておけよな」

 そういい残し、リビングを後にするカンクロウの背中を二人で見ていた。

「少し、からかい過ぎたかな」
「怒ったのか?」

 我愛羅が聞けば、テマリは肩を竦めて笑う。

「アレぐらいで本気で怒りはしないさ」

 食べ終わった食器にスプーンをからんと乗せてテマリは頬杖をする。
ぴちゃんと水が弾ける音が聞こえたので顔を上げれば、蛇口から水が少しだけ流れていた。



 ガチャガチャと聞こえる物音にまた傀儡でも触っているのかと思い、テマリは小さく息を吐く。

「カンクロウ、入るよ」

 軽くノックをして部屋の中から返事が聞こえる前に扉を開ければ、床に座り込んで、傀儡のメンテナンスをしているカンクロウの背中が見えた。

「どうしたんだよ、テマリ」

 細かい作業をするために嵌めていたゴーグルを外し、カンクロウは振り返る。

「頭がいいし、度胸がある。何より五代目火影の弟子と言うこともあって医療技術はもとより根性もある」
「は?」

 一歩だけ、室内に入ったテマリは先ほどの夕飯時に問われた質問の答えを返した。

「他里の忍だし、なによりあの子の周りはガードが固い。それでもカンクロウ、あんたが本気なら私は応援するよ」

 部屋に入ってきて突然の言葉。
何事かと眉間に皺を入れたカンクロウは手に持っていた工具を床に置く。

「何言ってんだよ」

 床に座ったまま、テマリを見上げたカンクロウは何故だかほんの少しだけ奥歯を噛んだ。
テマリから発せられる次の言葉が、何となく怖かった。

「……カンクロウ、アンタあの子に惚れてんのかい」

 疑問ではなく、断言。
姉であるテマリはカンクロウの奥底を見据えるように言い切った。

 首の後ろをガリガリと掻き指先に少しだけ力を入れ、カンクロウは大きく息を吐いた。

「わかんねぇよ……」

 考えた事も無い。
自分の心に問うても答えは明確にはなりやしない。

 何故だか途中で考える事を放棄した。

 友と言うには近すぎて、顔見知りと言うのは遠すぎて。
今はまだ、この距離感が丁度いい。


2.ひどく曖昧に、
 → 3.呆れるほど鮮やかに、