滞在三日目。
さて、土産も買ったしついでに散歩でもしようか。
そう考えて、テマリと我愛羅の二人と別れ木の葉の里をのんびりと歩く。
人が多い場所もまあいいが、たまには川辺でも行ってみるかな。
そう考えたカンクロウは傀儡を背負い、隈取姿で木の葉の里に流れる大きな川沿いを歩いていく。
歩いている途中、木の葉の子供達に好奇の目で見られたものだから少しだけからかうと傀儡に驚いて逃げてしまった。
木の葉に傀儡は無いから仕方がない。
桜が咲き誇る川沿いの道。
はらはら舞う桜を見ながら歩いていれば、桜の木の下に座る人物が一人。
一瞬、同化しているように見えたがよく目を凝らせば、そこには"春野サクラ"がぼんやりと座っていた。
「どうした? 元気無さそうじゃん」
「ぎゃあ!」
座り込んだサクラの頭上から声を掛ければ、サクラは大層驚き声を上げる。
「カ、カンクロウさん……!」
胸元に手を当て、呼吸を整えるサクラに「そんなに驚かなくていいじゃん」とポツリと呟く。
カンクロウの言葉には目も暮れず、親指で目元を無造作に拭いサクラは笑う。
「散歩ですか? 何かいい発見有りましたか」
目元を赤くしたまま、笑うサクラにカンクロウは小さく溜息を吐き首の後ろを少し掻いた。
「……まぁ、いい土産屋を見つけたのと、木の葉餓鬼共は相変わらず生意気だってのを再確認したじゃん」
肩を竦めて答えれば、サクラは眉を下げてクスリと笑う。
踏み込むのは如何なものかと思う。が、声をかけてしまった以上
このまま「はい、さようなら」と立ち去るのもなんだが気が引けカンクロウは考えあぐねた。
サラサラと目の前にでは川が穏やかに流れている。
太陽の光を反射して、輝いていた。
流れる沈黙。
耐えかねたカンクロウが一度口を結び、小さく息を吸う。
「元気無さそうじゃん」
女が泣いている時は黙って傍にいればいいとか、
理由を聞くなんてデリカシーがないとか、姉のテマリに後で散々言われそうな気がしたが、
この沈黙を打ち破れるのならば何だってよかった。
「やだなぁ……だって落ち込んでるときにカンクロウさんが声かけてくるんだもんなぁ」
木の根元に座り、両膝を曲げてその上にぺたりと両手を置いている。
流れる川を見ていたサクラは困ったように笑っている。
「そりゃぁ……タイミングが悪かったな」
「いいえ……ちょっと仕事でミスしちゃって」
ミスなら誰でもする。
自分だってそうだし、影である我愛羅だって書類を書き間違えたなど言う事も多々ある。
だが、サクラの言うミスの度合いがわからない。
わからないが、サクラが関わっているのは医療関係だ。
ミスは患者の命を危ぶむ。
「綱手様に凄く怒られちゃって。半端な覚悟なら医療忍者を辞めろ! って言われてしまいました」
あはは。と苦笑いをするサクラにカンクロウは眉を潜める。
今のサクラの立場を考えればサクラに対して叱咤できるのは師である綱手、あるいは姉弟子のシズネぐらいだ。
綱手はサクラの立場を考えると、甘えさせることは出来なかったのだろう。
「シズネさんが、少し頭を冷やしてきなさいって言ってくれて、今日は午後非番になっちゃったんです」
弟子入りして直ぐならば、何故怒られたかもわからない時もあった。
だけどもう、教える立場で一つの小さなミスが患者の命を奪いかねないという事も理解していた。
綱手の怒りは最もだ。
「それで、どうするんだ?」
サクラの正面で膝を折り、カンクロウは両膝に腕を乗せた。
目の前のカンクロウに問われたサクラは瞬きを数回して、くしゃりと笑う。
「これぐらいで医療忍者辞めてるならとっくの昔に辞めてますよ! ちょっと休憩して後で戻ろうと思います。忙しいのに甘えてられないですよ」
思わずカンクロウは微笑み、右手を伸ばしてサクラの頭をぐしゃりと撫でた。
「ん、それでこそ春野サクラじゃん」
にやりと笑えば、サクラは「どういうことですか!」と声を大きく張り上げた。
「もー、何するんですか」
「慰めてやったじゃん」
髪の毛を整えるサクラにカンクロウは笑う。
むすりとしたサクラはそっぽを向いてぽつりと「いいな」と呟いた。
「なにが……?」
サクラが呟いた言葉が辛うじて聞こえたカンクロウは問う。
「我愛羅くんがいいなーって思ったんですー」
「……なんで」
ここで何故弟の名が出てくるかわからず、カンクロウは首を傾げる。
ちらりとサクラはカンクロウを見て、口元を歪ませた。
「カンクロウさんみたいなお兄ちゃんがいて」
お兄ちゃん。
まさかそんな事を言われるとは思わず、瞬きをする。
嬉しいやら悲しいやら。
カンクロウが固まっている事なんて気にせずサクラは、よいしょ。と立ち上がる。
「うん、カンクロウさんに話してよかった! ありがとうございます」
土手を登り、手を上げにこやかに笑うサクラにカンクロウも釣られて手を上げた。
「へーい」
まあ、元気になってなによりじゃん。
ヒソリと心の中に落ちた何かにカンクロウは気がつかないふりをする。
「……お兄ちゃん、ねぇ」
ぼんやりと考えるカンクロウの背後に、何かが突進する気配。
ひらりと避ければ、そこには先ほどからかった子供が仲間を引き連れてやってきた。
「でたな妖怪! 成敗してくれる!」
「いやいや、妖怪って……」
悲しいかな、土手で戦隊ごっこに巻き込まれて遊ぶカンクロウの姿が目撃された。
4.なみだを隠すように、
→5.ぼくのとなりで君が、