「我愛羅、お前大丈夫か? 顔色悪いぞ」

 トイレから戻ってきた我愛羅の顔色が優れなかった。
そのあと飲むスピードが尋常じゃないほど早かったことに、キバは流石におかしいと思い声をかけた。

「だ、大丈夫だ……」
 青白い顔で我愛羅は返答する。
それでも飲むスピードを緩めず口に酒を運ぶ我愛羅に、周りの女医達は何故だか黄色い歓声を上げている。

「キャー、我愛羅さん素敵」
「お酒沢山飲める男の人って格好いいですよね」

 仮にも医者なら止めるという選択肢はないのか! キバは内心思ってはいたが、会社のお偉いさん達から『相手の女医の機嫌を損ねるような事をするなよ』と念を押されて言われた為、ぐっと口と思わず噤んだ。

「いいんすか、我愛羅さん呑み過ぎじゃないですかね」
「だよな……」

 新人の二人が見かねたのか、キバに耳打ちをする。
だが、一人は女医に腕を引かれ意識をそちらへと移してしまった。 あまりにもひどい有様に、流石のキバも溜息を吐きもうお開きにしてしまおう。そう考え「もう終わりにしよう」と投げかけた。

「遅くなったらあんたらも困るだろう」
「あらー、キバくんが送ってくれたらいいのよぅ」
 頬をほんのりと染める女がキバの正面に座り、ふふふと笑う。目元をピクリと動かしたキバは「飲酒運転は駄目だ」と声にする。

「私はー、我愛羅さんの家に泊まりたいなー」

 えらく我愛羅を気に入った、一人の女医。
ゆるくパーマをかけている髪を揺らしながら、我愛羅の顔を覗き込んだ女医に、7ビクリと肩を震わせた我愛羅は、勢いよく首を横に振った。

「だっ、駄目だ、駄目に決まっているだろう……!」
 大量に飲んで入るが、意識ははっきりとしているようで酔った節はない。我愛羅が酔って見境無く首を縦に振っていたら、キバは一発殴るしかないと思っていた為少しばかり安心する。

「やーん、つれないわねぇ。まあそんなところもいいんだけど」
 ぎゅっと我愛羅の腕に抱きつく女に、いい加減にしろ! とキバは声を大にしたかった。


 アルコールのにおいと、咽返るような香水の香り。 混ざった匂いが気持ちが悪い。腹の奥底を刺激するような感覚。


 ぐるぐると思考は回る。
どうしてだと、ぐるぐる考えてしまう。
確かに彼女との距離なんて近しいようで、それでいて遠い。月に一度は必ず顔をあわせて、一緒に食事をしたりもする。

 嫌われてないことは自負している。 何となく測った距離がいつだって、近いようで一歩踏み出せないのがもどかしい。

 サクラはどう思っているのだろうか。どう考えているのだろうか。会いたい。会ってその声が聞きたい。
 考えれば考えるほど、思考は回り目の前も回る。そっと口元を押さえ、我愛羅はぽつりと呟いた。

「……きもちわるい」

 考えすぎてきもちが悪いのか、それとも飲みすぎて気持ちが悪いのかよく分からなかった。



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