「オレと付き合うか」

 というか、付き合え。という言葉に首を傾げ「買い物? いいわよ」と返答をしたサクラに、我愛羅はこめかみを押さえ、業とらしく大きな溜息を吐いた。



「羨ましかったんだよ」

 真っ白な静かな病室。
腕に巻いている包帯を取り替えようと、真新しい包帯を持ち青年の目の前に座るマツリは静かに聴いていた。

「医療忍者としての憧れもあった。風影様と笑いながら笑っているのを見かけて、羨ましかった。サクラさんの視界に少しでも留まりたかった」

 腕の包帯を緩やかに外し、神経が通ってない腕を持ち上げる為、青年は左手で右腕を自ら持ち上げる。

「きっと、末端の医療忍者なんて気にも掛けてないと思ったから、あの時少しでも記憶に残ればいいなと思って少し卑怯な事をした自覚はあるよ」

 苦笑いをしながら笑う青年の言葉に、マツリは噂話を思い出す。少しだけ目を伏せて、マツリはサクラが今回派遣された時の会話を思い出していた。


『あの男の子、前回よりも技術、成績共に伸びてるじゃない』
『最近頑張ってるみたいですよ』

 新しい包帯が外れないように、少しきつく包帯を巻きながらマツリは言葉を続ける。

「サクラさんは……きちんと、見てるよ。里が違くても見てくれてる」

 厳しい所もあって、たまに死ぬほど怖い時もあるけれど。それもで木の葉と砂を繋ぐ柱として砂隠の医療忍者を見てくれてる。

「そう言えば結局、どうなったの? サクラさんに告白したんでしょ」

 包帯を巻き終わり、不要な部分を鋏で切り落としながらマツリはふと疑問に思い聞く。

「見事に振られたよ、完膚なきまでにね。やっぱり同情とかで付き合うなんてないし。サクラさんらしいと思ったよ」

 あはは。と笑う青年はどこか清々しい。
それ以上詳しくは聞かなかったが、マツリは眉を下げて微笑んだ。

「あ、それにさ」
「え」

 窓の外に視線を向けていた青年は、医療塔の下で何か言い合いながら歩いている我愛羅とサクラの姿を見つけ、微笑んだ。

「多分、いつも仏頂面な風影様と話しているときのサクラさんが好きだったんだと思うんだ」

 青年の視線の先を覗き込んだマツリは、ああ。納得。と頷いた。

「だって、我愛羅様、サクラさんと話してる時楽しそうだもの」

 我愛羅とサクラの二人を見ながら、マツリたちは笑っていた。


 ***


「ちょっとー、なに怒ってるのよー?」

 いつも仏頂面だが、どこかピリピリとしている我愛羅の背中を追いかけながらサクラは首を傾げていた。そもそも、我愛羅に誘われたから買い物に一緒に来たというのに、何故理不尽な怒りを与えられなければいけないのか。
うーん? と考えるサクラにくるりと振り返った我愛羅は目元を細めて、サクラを視界に入れる。

「鈍感」
「んな! なんですって!」

 キイイ! と声を上げたサクラは我愛羅の背中をドンドンと殴るように叩いている。
想いは伝わらないというのに、何故こんなにも殴られなければいけないのか。そう思っていればふと、ナルトとリーがいつも撃沈していたのを思い浮かべ、我愛羅は何となく納得した。

 誰かを愛する事に全力を注ぐサクラは、愛されている事をあまり実感していないのかもしれない。一度、仲間として懐に入ってしまえばその関係を打破するのは至難の業だ。

 泣きたい。
思わず弱音が心の中に浮かぶが、ぐっと飲み込み、未だ背中を叩いてくるサクラの手首を掴んで歩き出す。

「とりえ合えず、昼飯だ」
「あ、いいわねー。久々にラーメン食べたいかも」

 お腹を擦り空腹を訴えるサクラと、サクラの手首を掴んだままの我愛羅に向けられた好奇の目に二人とも気が付かなかった。


 06. 「泣かない」なんて嘘だった
 → 07. その言葉で知る無意識の底