かみ合わない歯車が、カラカラと音を立て空回りをする。
どうすればよくて、どうしたら良かったのか、答えが未だ見えてこない。
 気味が悪いほど静寂が漂う執務室。
無心に書類に目を通し、判子を押して片付ける。それをひたすら繰り返していれば山のように積み重なった書類の束がひとつ、いつの間にかなくなっていた。

「ん……」

 一番下に置かれていた草臥れた書類を手に取り目の前に広げる。書類の山が一つなくなったとは言え、その隣にはまだ二つほどある書類の山に我愛羅は溜息を深く吐いた。

 右手にある、鍵が付いた一番上の引き出し。鍵を開け取り出したのは、比較的新しい写真立て。
真っ白な病室。写真の中には生まれたばかりの、赤ん坊を抱いてベットに座り笑っているサクラと、穏やかな表情で二人を見ていた我愛羅が写っていた。

 写真を親指で撫で我愛羅は目元を細める。

 愛しくてたまらない。何よりも大切にしたくて、何よりも護りはずなのに。なのに、いつも悲しませている。どうしたらいいのか、もう我愛羅にも分からなかった。


 はぁ。と溜息を吐き、写真立てを引き出しに戻した所で、執務室の扉の前に人の気配を感じた。

「入れ」

 我愛羅の声の後に開かれた執務室の扉。
扉の先からは、よく見る顔と、まさかここに居るはずも無いと思っていた人物の姿に、我愛羅は思わず目を見開いた。

「よぉ、我愛羅。やっと戻ってきたぜー。」

 扉を開け放ったのは兄であるカンクロウ。カンクロウの後ろに、義理の母、つまりサクラの実の母親である"春野メブキ"が立っていた。

「久しぶりね、我愛羅君。元気してたかい?」

 カラリと笑うメブキに、我愛羅は立ち上がり、軽く頭を下げた。そんな我愛羅に「やめとくれよ」とメブキは肩を揺らして笑う。

「一体、今日はどうして」

 木の葉から砂隠れにくるまで忍の足で三日はかかる。なのに、メブキがカンクロウに連れられて今目の前に居るのにとても驚きを隠せなかった。

「サクラにね、手紙出してたんだけどもう一ヶ月近く返事が来ないからね。これはいよいよ大変なんじゃないかと思ってさ。木の葉に来てたカンクロウ君に無理言って連れて来てもらったんだよ」
「そうだぜ。まー丁度良かったんじゃねーの?」

 なあ。とカンクロウが我愛羅の奥を覗き見るようにゆっくりと瞬きをし、視線を合わせた。カンクロウの視線に少しばかり苦い顔をした我愛羅は、視線を逸らしメブキを見る。

「正直……助かりました。どうすればいいかもう、」
 わからなくて。そんな弱気な発言が思わず口から出そうになった我愛羅に、メブキは我愛羅の肩を遠慮無しに叩いた。
「なーに言ってんの! 家族だから当然でしょう」
 バシバシと肩を叩くメブキに、サクラの影が重なりやはり血を分けた母娘だなと納得する。

「可愛い顔の孫も見たいしねぇ」
 腕まくりをしたメブキは頬にクシャリと皺を入れて優しく微笑んだ。

 何となくだが。
子供が成長し、いつか結婚して孫が出来たなら。サクラも今のメブキのように子供の元に向かって、からりと笑うのが容易に想像でき、我愛羅は目元を少し細めて優しく笑っていた。



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