目の前で闇に飲まれた姿に不安が募る。
あの男が共に居るので大丈夫だろうと思い、建物から出て地面に手を触れた。

 どうか、無事で居てくれ。
 心の底からそう願った。



4.安らかな終焉を、


 押し潰されそうになっている黙っているわけにはいかない。
 助けなければ。
「リーさん!」
 リーを助けようとサクラが動こうとするが、少女がサクラにしがみ付いた。
「っ」
 少女に意識を取られ動きが止まってしまう。

 どうすれば!

 サクラの頭に過ぎった言葉。

 ゴゴゴと足元から聞こえてくる地鳴り
 足元の地面にビシリとヒビが入ったかと思えばその隙間から大量の砂が噴出した。

「流砂瀑流!」

 砂が溢れ、硬い岩壁を叩き壊す。
 地面を這いつくばっていた黒く蠢く物体は、半分ほど砂に飲まれ消えていく。

「うわっ!」
 砂の中から何とか這い出たリー。
 ガラガラと音を立て崩れた壁。外の光が差し込み辺りを照らす。
「無事か、お前達」
 光の中に少しだけ、焦ったような顔をしていた我愛羅の姿。
危うくリーとサクラ、そして保護をしなければいけない少女を砂で飲み込むところだった。
「我愛羅君!」
 サクラが我愛羅の姿を確認し声を上げる。
その声に我愛羅は少しだけ息を吐いた。

 砂の上に乗っていたサクラは少女の手を引きリーを砂から引きずり出す。
「すみません、サクラさん」
「気にしないで、取りあえず応急処置をします」
 リーの肋骨辺りを軽く撫でチャクラを掌に込め治療をする。
 未だ蠢く黒い物体が暗い通路の奥に動き出した。

 その奥に存在する何かの装置。
 眉間に皺を寄せた我愛羅がリーを治療しているサクラの横に降り立った。
さらさらと砂が辺りに浮遊しだす。
 黒い物体は段々と重なり合い、数十体居たものがドロリと溶けて混ざり合っていく。
 棒のように細い装置が赤々と輝けば、黒い物体は禍々しい一つの存在になる。
 四足で這いつくばる姿。真っ黒な体に血のような赤い目。
 ぐるぐると首が縦に回った。

 ターゲットを探しているようで、砂の上にいた我愛羅達を目に入れた瞬間、目掛けて飛び出した。
 目にも留まらぬ速さで、腕を振り下ろす。
我愛羅の砂がギリギリの間合いだがオートで防御をする。

「やはり、あれは……」
「我愛羅君、知ってるの」
 リーの治療を師ながらサクラは問う。
 砂が動き、我愛羅達を護るようドーム状の空間を作り上げた。

「資料として読んだ文献にあった。あれは死者の魂を具現化し兵器と変えてしまう装置。
あれに物理攻撃は一切効かない。砂の悪しき者が生み出したおぞましい力だ」
「だったら、あの装置を壊せばあの生物も止まると言うわけよね」
「恐らく」
 サクラの問いにコクリと頷く我愛羅。
 外から砂の防御を壊そうとガンガンと殴られ、はらはらと砂が落ちていく。

 眉間に皺を寄せ我愛羅は考える。
 この三人を護りながら、アレをどうすれば抑え込められるか。
 ゾワリと体の仲の細胞が危険信号を出す。
本能で危険を察知し、我愛羅はリーを治療していたサクラを押し退けた。
「っ、我愛羅君!」
 砂の防御を突き破り、黒く長い鋭利な爪が我愛羅の左肩を突き刺していた。
 
 ヒタリ

 サクラは自分の頬に生暖かいもので濡れるのを理解する。
 目を見開いて動きが止まるサクラ。

 地面を埋め尽くす大量の砂を操り、黒い物体を壁に叩きつける。
 ズルリと肩から爪が抜けた瞬間、我愛羅の左肩から大量の血液が流れ出た。

「我愛羅君、治療を……!」
「いい、先にリーを治せ」
 顔色一つ変えずに肩を押さえる我愛羅。痛くないはずは無い。

「ぼ、僕は、大丈夫です」
 ゆるゆると起き上がるリーの体を支えるサクラ。
「我愛羅君」
「なんだ」
「まだ、動けますよね」
 視線だけをリーに向ける。

「僕があの装置を壊します。我愛羅君はあのバケモノをお願いします」
 力強く笑ったリー。
 視線を黒い物体に向け、我愛羅は立ち上がった。

「足手纏いにだけはなるなよ」
「誰に言ってるんですか、木ノ葉の美しき碧い野獣ですよ」
「……それは知らん」
 我愛羅の横に立ちリーはサクラを見た。
「サクラさん、その方をお願いします」
「リーさん……」
 爽やか笑顔で白い歯を見せたリーにサクラはコクリと頷いた。
 サクラを一瞥し、先に動いたのは我愛羅。

 サラサラと砂の防御が崩れリーが飛び出した。
 黒い物体は数を増やしリーに襲い掛かる。すかさず我愛羅が砂で黒い物体を拘束し捻り潰した。
まるで生き物のように動く砂。
その砂に飛び乗り、流れるような速さで攻撃を避けるリー。
我愛羅の砂が導くように道を作る。 

「木ノ葉大旋風!!」

 リーの高速連続体術の技が繰り出された。
 バチバチと火花を散らす装置。最後にもう一度技を叩き込むとバキィ! と音を立てて大破した。

『ウオオォォォォ!!!』
 装置が壊れると同時に黒い物体が雄叫びを上げる。

 ゴゴゴゴゴと建物自体が揺れぱらぱらと壁が崩れだした。

「あの装置自体がこの建物の要だったか」
「リーさん急いで!」
 我愛羅が壊した壁から一番遠い所に居るリー。
 サクラは少女を抱きかかえリーに向かって叫ぶ。
「は、はい、今……」
 向かいます。そう言おうとしたが体を蝕むような激痛。
 ドロリと溶けだした黒い物体がリーを逃すまいと立ち塞がった。

 グラリと体が揺れ、前のめりに倒れそうになるリーを砂が覆う。
 サクラと少女も砂が意思を持ち腐敗した地下の空間から地上へと引き上げた。

 黒い物体は最後まで誰一人として逃がすまい。
引きずり込もうと腕を伸ばしていたが崩れ落ちた建物によって、埋め尽くされてしまった。




 目の前で戦っていた忍達の動きが突然ピタリと止まる。
 違和感を覚えていたシカマルは眉を吊り上げ息を飲んだ。

 戦っていたほぼ全ての忍びがガラガラと音を立てその場に崩れ落ちた。
「……なんだ、一体」
「シカマル、虫達が知らせてくれた。この戦場に立っているのは俺達だけだ」
 敵は居ない。
 シノの言葉に奇妙な違和感を覚えたシカマルは帰ったら調べる事が増えそうだな、と深く溜息を吐いた。