血を分けた姉や兄ですら己を見るときは脅えているのを知ってる。
己の中に化け物が居るのを知っている赤の他人が脅える事など重々承知だ。


「嫌ですよ……! 俺たちまで巻き込まれちまう!」
「そうですよ、何で我愛羅と任務なんか!」

 バン! と机を叩き抗議する上忍の男達。
部屋の外で聞いていた我愛羅は腕を組み廊下に立ち尽くしていた。

「仕方がないだろう。これは任務だ」
「だったらテマリとカンクロウを連れてあんたが行けばいいだろう!」
 お前が面倒見てんだろうが! と男が言い放った相手はバキだった。

「今回別件で行けぬのだ。任務成功確率を考えると我愛羅は外せん」
 バキの言葉にいまだ納得しないのか上忍達は抗議を続ける。


 ざわざわ煩い。お前達などこちらから願い下げだ。
奥歯を少し噛めば腹の辺りが内側から鷲掴みされる感覚に我愛羅は眉間に皺を入れる。



「あんた等いい加減にするじゃん」

 部屋に響いたカンクロウの声。
我愛羅はゆっくりと顔を上げ、小さく息を呑む。


「アイツは今変わろうとしてんだよ」
「はぁ?」

 上忍の一人がカンクロウに詰め寄り胸倉を掴んだ。

「大体てめえらがアイツの躾してねぇからだろうが、兵器なら言う事聞くようにしておけよ!」
 男の腕を振り払いカンクロウは叫ぶように言葉を吐いた。


「ちげぇよ! アイツは兵器じゃねぇ、俺達の家族じゃん!!」


 心臓が、止るかと錯覚を起こす。
弾ける様に顔をあげた我愛羅は、室内から聞こえた鈍く叩きつける音に目を見開いた。


「やめないか!」
 バキの制する声。

「くそっ……!! 俺等はアイツと任務に行かねぇからな!」
「命が幾つあっても足らないぜ!」

 吐き捨てるように室内を飛び出した上忍二人。
姿を隠した我愛羅は気が付かれなかったことにほんの少しだけ安堵する。



「無茶をしたな」
「しかたねぇじゃん……テマリが居ても同じだったと思うぜ」

 シンとする部屋に響く声。
我愛羅は逃げるようにその場から立ち去った。

 嬉しかったのかも知れない。だけど怖かったのかもしれない。
どうすればいいかわからぬ感情にただ、その場から一歩でも早く立ち去りたかったのだ。





「家族か……」
「……家族じゃん」
 上忍の一人に思い切り殴りつけられたカンクロウは、頬を押さえバキに答える。


「そうか、ならば明日お前達に特別任務を与える」
「はあ?」

 手元で書類を整えるバキにカンクロは何を言っているのだと視線を向ける。


「明日の朝、テマリと我愛羅を連れて来い」
「何処にじゃん……」

 その問いにバキは、明日になれば分かる。と楽しそうに答えるのを見て
カンクロウは怪訝な表情を見せた。